小さな恋のうた
変わらない事(優希×鷹取)
奏達と分かれ、ぼんやりと考え事をしながら家までの道を歩いている。中学生になってから、奏達と分かれてからのこの道を、一人で歩くようになった。
小学生の頃は、いつも恭ちゃんと一緒に歩いて帰る道だった。お互いに笑顔で色んな事を話して歩いていた。中学生になって、部活に入って、下校時間があわなくなって、せっかくの月曜日、ノー部活デーも、恭ちゃんは友達と寄り道ばかりして……私と一緒に帰る事はなかった。
呼び名も変わった。
小学生までは、『恭ちゃん』『優希』。それが中学生になった途端に『那珂川』『鷹取』。私は……なんか寂しかった。でも、周りの皆も、下の名前で呼びあっていた小学生の頃が嘘のように、苗字で互いを呼ぶようになっていた。それが、当たり前なんだろう。あの奏や生田の二人でも今更だけど苗字呼びに変わったんだから。
背が高くなったね恭ちゃん。
以前は私とあまり変わらなかったのに、いつの間にか身長も伸びて、私よりもずっと背も体格も大きくなった。少し目線を上げるくらいで良かったのが、今じゃ、見あげなきゃいけない。顔も声も……男らしくなったよね。
そして……
お母さんがいなくなって、遅刻や欠席ばかり。ご飯だってコンビニ弁当。学校に来ても、机の上にうつ伏せで、他の男子より大きな体のせいで一部の人達以外は周りも腫れ物を触るように接して……
実際、私もそうだったのかもしれない。
恭ちゃんが辛い時、悲しい時に……離れて見てるだけしかできなかったから……
だから、私は思い切って声を掛けてみた。お母さんに頼んで、恭ちゃんの分の夕ご飯も作ってもらった。
でも……拒否された。ウザいと言われた。そうかもしれない。恭ちゃんの気持ちも考えずに、話し掛けていたから。
辛かった。
でも、あの日、からかってきた男子に何も言えず、泣きそうになっていた私を庇ってくれた時は、嬉しかった。小学生の頃、何度か上級生からからかわれていた時と同じように庇ってくれた事が。決して私の為だと言わないけど、一回、絶対に舌打ちをする。その癖は変わっていない。
ありがとうが言えなかった。あの時のように、恭ちゃん、ありがとうっていえなかった。
ふと、顔を上げると、私の少し先を、私よりもずっと背の高い男子が見えた。
「鷹取……」
私は思わずその男子の名前を口にした。声が聞こえたのか、恭ちゃんがゆっくりとこちらの方へ振り返る。そして、自分を呼んだ相手が私だと気がつくと驚いたような顔をした。
「……鷹取、一緒に帰って良か?」
一瞬、えっと言う顔をになったが、無言で頷く恭ちゃんは、それでも立ち止まり、私を待ってくれた。
私が恭ちゃんの隣に並んだ事を確認すると無言で歩き始めた。気まずい空気だけが私達を包み込んでいる。
このまま行くと、もうすぐ家に着いてしまう。
「恭ちゃん……ご飯、ちゃんと食べよる?」
「……」
「恭ちゃん……学校、あまり遅刻せんようになったね……」
「……」
「恭ちゃん……この前は……」
「てかさ、なんでその呼び方なん?」
今まで何も返してくれなかった恭ちゃんが口を開いた。そして、ちらりと私の方をみる。びくりと私の体が動いた。
怖い……もう恭ちゃんと呼ぶなと拒否されるのが……
「ご、ごめん……二人の時には良いかなって……嫌やった?」
「いや……嫌っち言うか……中学になってからずっと『鷹取』やったけん……」
「二人の時なら、恭ちゃんって呼んでも良か?」
「……うん、まぁ……それなら良かばってん……」
ちっと一回舌打ちをすると、私から顔をそらしてしまう。まさか、受け入れて貰えるとは思っていなかった。拒否されるんじゃないかとどきどきしていた。
嬉しい。思わず笑みが零れてしまう。
「ありがとう」
「別に」
また舌打ちをして顔を私からそらしている恭ちゃん。そして、私は勇気をだして更に一歩、踏み出したいと思う。
「でさ、お願いがあるとばってん……」
「なん?」
やっと私の方へと顔を向けてくれた。突然の私からのお願い事に戸惑いを隠せていない。
「私の事も、昔みたいに呼んでくれん?」
「……はぁっ?!」
「二人の時だけで良かけん……駄目?」
「……っ!!」
「……嫌?」
「……わ、分かったよ。その代わり、二人ん時だけばい」
「うんっ!!ありがとう!!……でさ、今さ、二人なんやけど?」
「……っっ?!」
「ねぇ?今、二人ばい?」
「……お前……」
困ってる。大きな体をあたふたとしてこまっている。そんな恭ちゃんを久しぶりにみた私は、意地悪を言いたくなった。
「……お前じゃなかし」
「ゆ、優希……」
「ふふっ……なぁに、恭ちゃん」
「なんもなかっ!!」
また一回舌打ちをすると、私から顔をそらした。変わってないなぁ。
照れた時にする恭ちゃんの癖。舌打ちを一回して顔をそらす……その癖。
背だって、体格だって、大きくなったのに、顔だって、声だって、男らしくなってきたのに、たくさん辛いことだってあったのに……
変わってない事もたくさんある。
「恭ちゃんっ!!」
「なんね、にやにやして気持ち悪かね?」
「なぁんもなかよ」
好いとおよ……私は恭ちゃんの事が、昔から変わらずにばり好いとるよ。
小学生の頃は、いつも恭ちゃんと一緒に歩いて帰る道だった。お互いに笑顔で色んな事を話して歩いていた。中学生になって、部活に入って、下校時間があわなくなって、せっかくの月曜日、ノー部活デーも、恭ちゃんは友達と寄り道ばかりして……私と一緒に帰る事はなかった。
呼び名も変わった。
小学生までは、『恭ちゃん』『優希』。それが中学生になった途端に『那珂川』『鷹取』。私は……なんか寂しかった。でも、周りの皆も、下の名前で呼びあっていた小学生の頃が嘘のように、苗字で互いを呼ぶようになっていた。それが、当たり前なんだろう。あの奏や生田の二人でも今更だけど苗字呼びに変わったんだから。
背が高くなったね恭ちゃん。
以前は私とあまり変わらなかったのに、いつの間にか身長も伸びて、私よりもずっと背も体格も大きくなった。少し目線を上げるくらいで良かったのが、今じゃ、見あげなきゃいけない。顔も声も……男らしくなったよね。
そして……
お母さんがいなくなって、遅刻や欠席ばかり。ご飯だってコンビニ弁当。学校に来ても、机の上にうつ伏せで、他の男子より大きな体のせいで一部の人達以外は周りも腫れ物を触るように接して……
実際、私もそうだったのかもしれない。
恭ちゃんが辛い時、悲しい時に……離れて見てるだけしかできなかったから……
だから、私は思い切って声を掛けてみた。お母さんに頼んで、恭ちゃんの分の夕ご飯も作ってもらった。
でも……拒否された。ウザいと言われた。そうかもしれない。恭ちゃんの気持ちも考えずに、話し掛けていたから。
辛かった。
でも、あの日、からかってきた男子に何も言えず、泣きそうになっていた私を庇ってくれた時は、嬉しかった。小学生の頃、何度か上級生からからかわれていた時と同じように庇ってくれた事が。決して私の為だと言わないけど、一回、絶対に舌打ちをする。その癖は変わっていない。
ありがとうが言えなかった。あの時のように、恭ちゃん、ありがとうっていえなかった。
ふと、顔を上げると、私の少し先を、私よりもずっと背の高い男子が見えた。
「鷹取……」
私は思わずその男子の名前を口にした。声が聞こえたのか、恭ちゃんがゆっくりとこちらの方へ振り返る。そして、自分を呼んだ相手が私だと気がつくと驚いたような顔をした。
「……鷹取、一緒に帰って良か?」
一瞬、えっと言う顔をになったが、無言で頷く恭ちゃんは、それでも立ち止まり、私を待ってくれた。
私が恭ちゃんの隣に並んだ事を確認すると無言で歩き始めた。気まずい空気だけが私達を包み込んでいる。
このまま行くと、もうすぐ家に着いてしまう。
「恭ちゃん……ご飯、ちゃんと食べよる?」
「……」
「恭ちゃん……学校、あまり遅刻せんようになったね……」
「……」
「恭ちゃん……この前は……」
「てかさ、なんでその呼び方なん?」
今まで何も返してくれなかった恭ちゃんが口を開いた。そして、ちらりと私の方をみる。びくりと私の体が動いた。
怖い……もう恭ちゃんと呼ぶなと拒否されるのが……
「ご、ごめん……二人の時には良いかなって……嫌やった?」
「いや……嫌っち言うか……中学になってからずっと『鷹取』やったけん……」
「二人の時なら、恭ちゃんって呼んでも良か?」
「……うん、まぁ……それなら良かばってん……」
ちっと一回舌打ちをすると、私から顔をそらしてしまう。まさか、受け入れて貰えるとは思っていなかった。拒否されるんじゃないかとどきどきしていた。
嬉しい。思わず笑みが零れてしまう。
「ありがとう」
「別に」
また舌打ちをして顔を私からそらしている恭ちゃん。そして、私は勇気をだして更に一歩、踏み出したいと思う。
「でさ、お願いがあるとばってん……」
「なん?」
やっと私の方へと顔を向けてくれた。突然の私からのお願い事に戸惑いを隠せていない。
「私の事も、昔みたいに呼んでくれん?」
「……はぁっ?!」
「二人の時だけで良かけん……駄目?」
「……っ!!」
「……嫌?」
「……わ、分かったよ。その代わり、二人ん時だけばい」
「うんっ!!ありがとう!!……でさ、今さ、二人なんやけど?」
「……っっ?!」
「ねぇ?今、二人ばい?」
「……お前……」
困ってる。大きな体をあたふたとしてこまっている。そんな恭ちゃんを久しぶりにみた私は、意地悪を言いたくなった。
「……お前じゃなかし」
「ゆ、優希……」
「ふふっ……なぁに、恭ちゃん」
「なんもなかっ!!」
また一回舌打ちをすると、私から顔をそらした。変わってないなぁ。
照れた時にする恭ちゃんの癖。舌打ちを一回して顔をそらす……その癖。
背だって、体格だって、大きくなったのに、顔だって、声だって、男らしくなってきたのに、たくさん辛いことだってあったのに……
変わってない事もたくさんある。
「恭ちゃんっ!!」
「なんね、にやにやして気持ち悪かね?」
「なぁんもなかよ」
好いとおよ……私は恭ちゃんの事が、昔から変わらずにばり好いとるよ。