小さな恋のうた
初雪(早川×真田)
空を見上げた。午後六時過ぎ、十二月半ばの冬の空は既に陽も落ちてすっかり夜になっている。吐く息が白い。特に今週は冷え込むせいか、時折、吹いてくる風にぶるりと震えてしまう。
「真田っ!!」
名前を呼ばれ振り返ると、同じく部活帰りの女子がこちらに手を振っていた。
早川 千佳。
同学年で女子バレーボール部。俺は男子バレーボール部なので、帰る時間が重なり、家の方向も同じなので、帰り道が時々一緒になる。また、早坂とは小学校の頃、ジュニアバレーボールクラブでも同じチームだった。そういう事もあり、気心の知れた仲ではある。
「今日の練習、ばりきつかったっちゃけど」
「女バレ、気合いはいっとたもんね、見よってわかった」
「そう一月の新人戦に向けて先生、燃えとるとやん」
「早川、期待されとるしね」
「そんなんじゃなかよ。てか、真田も最近、ばり声出して頑張りよるやん」
「……そりゃ、三年引退したし、うちら二年が引っ張っていかんとだめやろ?」
「あんたさ、普段はへらへらしたお調子者ばってん、時々、変に熱くなるよね……やっぱ、真田が部長になって正解やん」
「はぁ……なんねそれ?褒められとるんか貶されとるか……」
俺の言葉にあははっと笑う早川がふと足を止め空を見上げた。
「真田っ、真田っ!!雪っ、雪が降ってきよるっ!!」
早川の言う通り、ふわりふわりと雪が舞い降りてくる。その雪に手を伸ばしている早川。バレーの時に邪魔だからと小学生の頃から変わらないショートカット。ぐるりと巻いたマフラーから出ている頬が薄らと赤く染まり、吐いた白い息が宙へと消えていく。
俺はそんな早川に見蕩れていた。
早川にとって俺はバレー仲間の一人なんだろう。仲の良い友達。それで良いこの関係を崩したくない。
「初雪ぃーっ!!積もるやか?積もると良かのにねっ!!」
目を細め、にかっと白い歯を見せて笑う早川。
こいつ、可愛いかなぁ……てか、俺、早川の事、ばり好いとる……
「えっ?」
早川が驚いた様な表情で俺を見た。やばいっ、思っていた事が口に出ていたと気付いた。顔が熱くなってくるのが分かる。
「ん、何?何か言わんやった?よく聞こえんやったちゃけど?」
俺は早川のその言葉にほっと胸を撫で下ろした。聞こえなくて良かった。恥ずかしさから挙動不審になっている俺を不思議そうに見ている早川。
「何もなかよ……風邪ひくといかんけん、早う帰ろ?」
「……そうやね。本当に明日、起きたら積もっとらんやか」
俺と早川は分かれ道の三叉路まで取り留めのない会話をしながら歩いた。俺にはその帰り道がとても長く感じた。心の動揺を悟られない様に必死だったから。
「それじゃ、また明日」
三叉路まで来ると、早川が胸の前で小さく手を振った。俺もそれに答える様に、またねと手を上げると自分の家の方へと歩き出した。そして、角を曲がろうとした時である。
「真田っ!!」
早川に呼び止められた。振り返ると、早川がさっき分かれた所に立っている。少しも動いていなかった。
「真田っ、ありがとっ!!あたしも好いとぉよっ!!」
照れた様な笑顔でそう言うと、くるりと背を向け走り出した。俺は早川の姿が見えなくなるまで動けなかった。
聞かれていたんだ……
全身が熱い。
俺は体の火照りを冷ますかの様に、ゆっくりと歩きながら帰った。
「真田っ!!」
名前を呼ばれ振り返ると、同じく部活帰りの女子がこちらに手を振っていた。
早川 千佳。
同学年で女子バレーボール部。俺は男子バレーボール部なので、帰る時間が重なり、家の方向も同じなので、帰り道が時々一緒になる。また、早坂とは小学校の頃、ジュニアバレーボールクラブでも同じチームだった。そういう事もあり、気心の知れた仲ではある。
「今日の練習、ばりきつかったっちゃけど」
「女バレ、気合いはいっとたもんね、見よってわかった」
「そう一月の新人戦に向けて先生、燃えとるとやん」
「早川、期待されとるしね」
「そんなんじゃなかよ。てか、真田も最近、ばり声出して頑張りよるやん」
「……そりゃ、三年引退したし、うちら二年が引っ張っていかんとだめやろ?」
「あんたさ、普段はへらへらしたお調子者ばってん、時々、変に熱くなるよね……やっぱ、真田が部長になって正解やん」
「はぁ……なんねそれ?褒められとるんか貶されとるか……」
俺の言葉にあははっと笑う早川がふと足を止め空を見上げた。
「真田っ、真田っ!!雪っ、雪が降ってきよるっ!!」
早川の言う通り、ふわりふわりと雪が舞い降りてくる。その雪に手を伸ばしている早川。バレーの時に邪魔だからと小学生の頃から変わらないショートカット。ぐるりと巻いたマフラーから出ている頬が薄らと赤く染まり、吐いた白い息が宙へと消えていく。
俺はそんな早川に見蕩れていた。
早川にとって俺はバレー仲間の一人なんだろう。仲の良い友達。それで良いこの関係を崩したくない。
「初雪ぃーっ!!積もるやか?積もると良かのにねっ!!」
目を細め、にかっと白い歯を見せて笑う早川。
こいつ、可愛いかなぁ……てか、俺、早川の事、ばり好いとる……
「えっ?」
早川が驚いた様な表情で俺を見た。やばいっ、思っていた事が口に出ていたと気付いた。顔が熱くなってくるのが分かる。
「ん、何?何か言わんやった?よく聞こえんやったちゃけど?」
俺は早川のその言葉にほっと胸を撫で下ろした。聞こえなくて良かった。恥ずかしさから挙動不審になっている俺を不思議そうに見ている早川。
「何もなかよ……風邪ひくといかんけん、早う帰ろ?」
「……そうやね。本当に明日、起きたら積もっとらんやか」
俺と早川は分かれ道の三叉路まで取り留めのない会話をしながら歩いた。俺にはその帰り道がとても長く感じた。心の動揺を悟られない様に必死だったから。
「それじゃ、また明日」
三叉路まで来ると、早川が胸の前で小さく手を振った。俺もそれに答える様に、またねと手を上げると自分の家の方へと歩き出した。そして、角を曲がろうとした時である。
「真田っ!!」
早川に呼び止められた。振り返ると、早川がさっき分かれた所に立っている。少しも動いていなかった。
「真田っ、ありがとっ!!あたしも好いとぉよっ!!」
照れた様な笑顔でそう言うと、くるりと背を向け走り出した。俺は早川の姿が見えなくなるまで動けなかった。
聞かれていたんだ……
全身が熱い。
俺は体の火照りを冷ますかの様に、ゆっくりと歩きながら帰った。