小さな恋のうた
実行委員(吉野×鵜木)
鵜木 春樹。
吉野 彩香。
教室の黒板に大きく俺と吉野の名前が書かれている。二人の名前の横に『体育祭実行委員』の文字。
そう、五月第三日曜日に行われる体育祭に向けて、俺と吉野が実行委員に選ばれた。立候補が誰もいなかった時の事を考えて、担任が予め決めていたみたいだ。
俺は昼休みに親友であり、同じ野球部の八女の席の前に座り、今日の朝に決まった実行委員への不満を溜息混じりに漏らしていた。
「体育祭の実行委員とか、まじでめんどくさかっちゃけど!!」
「決まった事なんやけん、しゃぁなかやん。覚悟ば決めんと男やろ?」
「お前さ、それ他人事ち思っとるけん言えるとばいやん……しかも、女子の実行委員……吉野ばい?」
「まぁ、吉野は少しとろかけど、お前が引っ張ってやりゃ、良かろうもん」
「少し?少しか?」
吉野は、ソフト部に所属しており、部長である伊川を筆頭としたパワフル女子達の中でも珍しく口数少なく、大人しい。そして、本当にソフト部のスタメンを任されているかと疑ってしまうほどとろく、いつも何かをやらかしている。漫画などで言えば、ドジっ子と呼ばれる部類の女子。
「まぁ、何とかなるやろ?頑張れ」
「まじ、お前……他人事な」
その時である。後ろから声を掛けられた。振り返るとそこにおどおどとした様な表情の女子が立っていた。
「……鵜木くん、ちょっと良か?体育祭の事なんやけど」
噂をすればなんとやらである。僕へ吉野が話しかけて来た。小さく震えた声。すると、八女が僕へそれじゃと席を立ち去っていく。
「……えっと」
「今日の放課後、体育祭実行委員の会議があるっち、先生が言いよったけん……それば」
俺と視線を合わせようとせず、俯いたまま、要件だけを伝える。
「……あ、うん。分かった、ありがとう」
「……うん、ごめんね……お話しの邪魔ばして……」
ぺこりと頭を下げ急いで去っていく吉野。多分、俺と八女の話しを聞いたのだろう。これから、実行委員としてやっていくのに、心証はめちゃくちゃ悪いんだろうな。まぁ、俺が吉野の陰口みたいなのを叩いていたから、その報いなんだろうけど。
俺ははぁっと大きく息を吐いた。
帰りのHRが終わり、俺は会議のある場所へと行こうと席をたったが、その会議がどこであるのか聞いていない事に今更、気がついた。教室を見渡すが吉野の姿が見えない。先に行ったんだろう。そりゃそうだ。自分の陰口を叩く奴と一緒に行きたくはないだろう。
俺は、とりあえず担任に会議の場所を聞こうと教室を出た。
「……あっ、鵜木くん」
教室から出たすぐのところに、吉野が立っていた。そして、俺に気づくと少し微笑んで駆け寄ってきた。
「ご、ごめんね……会議の場所ば言っとらんやったけん……」
「いや、聞かんやった俺も悪かった……でも、教室の中で待っとってくれとったら良かったのに」
「……い、いや、ごめんね……教室の中で待っとくと迷惑かなって」
「……は、何で?別に迷惑にならんやろ?逆に焦ったばい」
「う、うん、ごめん」
「お前さ、なんですぐ謝るん?別に悪か事ばしよらんやろうもん?」
「う、あ……ご、ごめん」
「そ、そう言えば……先生からプリントば預かっとったとやった」
会議の行われる視聴覚室まで歩いていると、吉野が鞄を開き、ごそごそと中身を触りだした。
俺を待たせている事に焦っていたのか、プリントを取り出した瞬間、鞄の中身を廊下にばら蒔いてしまった。
「あっ……」
慌てて拾い始める吉野。廊下を歩いていた他の生徒達がくすくすと笑いながら去っていく。
恥ずかしいのか、耳まで真っ赤にしながら教科書やノート、筆箱から飛び出した筆記用具を拾い集めている。
「なんばしよっと?ほら、早う拾わんと」
俺も吉野の隣にしゃがんで落とした物を拾い始めた。
「……?!よ、良かよ……そんな鵜木くん……先に行っといて」
「馬鹿か?一人で拾うより、二人の方が早かろうもん。てか、周りの奴らも笑っとるなら拾えば良かっちゃんっ」
二人で何とか拾い集めると、俺へプリントを渡した。
「……ご、ごめんね……私がとろかけん」
「また謝りよる。ごめんじゃなかろ?」
「……あ、ありがとう」
「うん、早う行くばい?」
こくりと頷き、俺の後ろをついてくる吉野。俺達は何とか遅刻せずに会議に間に合った。
会議も終わり、俺らはそれぞれ部活があるため、部室の方へと向かっている。
「……あ、あの鵜木くん」
「なん?」
「……わ、私、とろかけど一生懸命頑張るけん……よろしくね」
「よろしく」
「うん」
「でも、もう鞄の中身ばぶちまけるのはやめてな」
「……あ……う」
「それじゃ、俺はこっちやけん」
俺は自分の部室の方を指差し、吉野へと手を上げた。吉野は頷き、じゃあねと胸の前で小さく手を振ってくれた。
「鵜木くんっ!!」
部室の扉に手をかけた時に不意に後ろから名前を呼ばれた。振り返ると、さっき分かれたはずの吉野が立っている。
「……あ、あの……実行委員同士で、れ、連絡する事とかあるかもやけん……ラ、LINEば……」
吉野はそう言うと俺の方へおずおずとスマホを出てきた。俺はそれに応え、ポケットからスマホを取り出すと、吉野とLINEを交換した。
「ありがとうっ!!」
ふわりとした笑顔で微笑む吉野は、俺にお礼を言うとソフト部の部室の方へと走り去って行った。
吉野 彩香。
教室の黒板に大きく俺と吉野の名前が書かれている。二人の名前の横に『体育祭実行委員』の文字。
そう、五月第三日曜日に行われる体育祭に向けて、俺と吉野が実行委員に選ばれた。立候補が誰もいなかった時の事を考えて、担任が予め決めていたみたいだ。
俺は昼休みに親友であり、同じ野球部の八女の席の前に座り、今日の朝に決まった実行委員への不満を溜息混じりに漏らしていた。
「体育祭の実行委員とか、まじでめんどくさかっちゃけど!!」
「決まった事なんやけん、しゃぁなかやん。覚悟ば決めんと男やろ?」
「お前さ、それ他人事ち思っとるけん言えるとばいやん……しかも、女子の実行委員……吉野ばい?」
「まぁ、吉野は少しとろかけど、お前が引っ張ってやりゃ、良かろうもん」
「少し?少しか?」
吉野は、ソフト部に所属しており、部長である伊川を筆頭としたパワフル女子達の中でも珍しく口数少なく、大人しい。そして、本当にソフト部のスタメンを任されているかと疑ってしまうほどとろく、いつも何かをやらかしている。漫画などで言えば、ドジっ子と呼ばれる部類の女子。
「まぁ、何とかなるやろ?頑張れ」
「まじ、お前……他人事な」
その時である。後ろから声を掛けられた。振り返るとそこにおどおどとした様な表情の女子が立っていた。
「……鵜木くん、ちょっと良か?体育祭の事なんやけど」
噂をすればなんとやらである。僕へ吉野が話しかけて来た。小さく震えた声。すると、八女が僕へそれじゃと席を立ち去っていく。
「……えっと」
「今日の放課後、体育祭実行委員の会議があるっち、先生が言いよったけん……それば」
俺と視線を合わせようとせず、俯いたまま、要件だけを伝える。
「……あ、うん。分かった、ありがとう」
「……うん、ごめんね……お話しの邪魔ばして……」
ぺこりと頭を下げ急いで去っていく吉野。多分、俺と八女の話しを聞いたのだろう。これから、実行委員としてやっていくのに、心証はめちゃくちゃ悪いんだろうな。まぁ、俺が吉野の陰口みたいなのを叩いていたから、その報いなんだろうけど。
俺ははぁっと大きく息を吐いた。
帰りのHRが終わり、俺は会議のある場所へと行こうと席をたったが、その会議がどこであるのか聞いていない事に今更、気がついた。教室を見渡すが吉野の姿が見えない。先に行ったんだろう。そりゃそうだ。自分の陰口を叩く奴と一緒に行きたくはないだろう。
俺は、とりあえず担任に会議の場所を聞こうと教室を出た。
「……あっ、鵜木くん」
教室から出たすぐのところに、吉野が立っていた。そして、俺に気づくと少し微笑んで駆け寄ってきた。
「ご、ごめんね……会議の場所ば言っとらんやったけん……」
「いや、聞かんやった俺も悪かった……でも、教室の中で待っとってくれとったら良かったのに」
「……い、いや、ごめんね……教室の中で待っとくと迷惑かなって」
「……は、何で?別に迷惑にならんやろ?逆に焦ったばい」
「う、うん、ごめん」
「お前さ、なんですぐ謝るん?別に悪か事ばしよらんやろうもん?」
「う、あ……ご、ごめん」
「そ、そう言えば……先生からプリントば預かっとったとやった」
会議の行われる視聴覚室まで歩いていると、吉野が鞄を開き、ごそごそと中身を触りだした。
俺を待たせている事に焦っていたのか、プリントを取り出した瞬間、鞄の中身を廊下にばら蒔いてしまった。
「あっ……」
慌てて拾い始める吉野。廊下を歩いていた他の生徒達がくすくすと笑いながら去っていく。
恥ずかしいのか、耳まで真っ赤にしながら教科書やノート、筆箱から飛び出した筆記用具を拾い集めている。
「なんばしよっと?ほら、早う拾わんと」
俺も吉野の隣にしゃがんで落とした物を拾い始めた。
「……?!よ、良かよ……そんな鵜木くん……先に行っといて」
「馬鹿か?一人で拾うより、二人の方が早かろうもん。てか、周りの奴らも笑っとるなら拾えば良かっちゃんっ」
二人で何とか拾い集めると、俺へプリントを渡した。
「……ご、ごめんね……私がとろかけん」
「また謝りよる。ごめんじゃなかろ?」
「……あ、ありがとう」
「うん、早う行くばい?」
こくりと頷き、俺の後ろをついてくる吉野。俺達は何とか遅刻せずに会議に間に合った。
会議も終わり、俺らはそれぞれ部活があるため、部室の方へと向かっている。
「……あ、あの鵜木くん」
「なん?」
「……わ、私、とろかけど一生懸命頑張るけん……よろしくね」
「よろしく」
「うん」
「でも、もう鞄の中身ばぶちまけるのはやめてな」
「……あ……う」
「それじゃ、俺はこっちやけん」
俺は自分の部室の方を指差し、吉野へと手を上げた。吉野は頷き、じゃあねと胸の前で小さく手を振ってくれた。
「鵜木くんっ!!」
部室の扉に手をかけた時に不意に後ろから名前を呼ばれた。振り返ると、さっき分かれたはずの吉野が立っている。
「……あ、あの……実行委員同士で、れ、連絡する事とかあるかもやけん……ラ、LINEば……」
吉野はそう言うと俺の方へおずおずとスマホを出てきた。俺はそれに応え、ポケットからスマホを取り出すと、吉野とLINEを交換した。
「ありがとうっ!!」
ふわりとした笑顔で微笑む吉野は、俺にお礼を言うとソフト部の部室の方へと走り去って行った。