小さな恋のうた
宝物(戸畑×八幡)
「奏音、この前の練習試合の後、他中の男子から告られたとやろ?」
「うそっ?!で、どうしたん?」
「断ったよ?」
「まじで?結構イケメンらしいやん?」
「それでもね……」
俺らの斜め前の席に数人の女子が集まりお喋りに夢中になっている。内容は女子の大好きな恋話。その女子達の話題の中心にいるのが女バレの戸畑奏音。彼女が動くたびにポニーテールが左右へと動く。
「てかさ、戸畑って彼氏おるらしいやん?」
女子達の話しを聞いていたのか、俺と一緒にいた男バレの真田が俺だけに聞こえるくらいの小さな声で言った。俺はちらりと戸畑を見たが、すぐに視線を元に戻した。
「……ふぅん。そったい」
「なんね興味無さげやね」
「そだね」
「お前、モテんのにまるで女子に興味なかもんなぁ……もしかして……」
俺はその先を言われる前に、真田の額にデコピンをかましてやった。
正直な気持ち、戸畑に全く興味が無いわけではなかった。
俺は戸畑と以前、付き合っていた。中一の十一月から三月、春休みに入る前まで。皆に内緒でバレないように付き合っていた事もあり、誰も知らない。
そして、俺達二人は、なんだかんだあってすれ違い、春休みを挟み、二年へ進級後はクラスも別になり、また、あの頃の二人共、スマホなんて持っておらず、自然消滅という結果に終わった。
たった五ヶ月だけの交際。
でも、今思えば、それで良かったと思っている。
戸畑はあの頃から比べ、容姿だけではなく色々な面で、とても成長した。
今の俺と戸畑では釣り合わない。
そんな事を考えていると昼休みの終わりを報せる予鈴がなった。真田が自分の席へと戻っていく。そして、俺はもう一度、ちらりと戸畑へと視線をやった。
「このテディベア、片耳取れとるし汚れとるやん?新しいのば買わんね?」
帰りのHRが終わり、ざわつきの残る教室で俺が鞄へと教科書などを入れていると、斜め前の席から一際大きな声が聞こえてきた。
どうやら女バレの連中の話し声である。
一人の女子が戸畑の鞄についているキーホルダーを手に取って笑っている。俺はふと、そのキーホルダーに目を向けた。
バレーのユニフォームを着たテディベアの人形がついたキーホルダー。そのテディベアの片耳が取れている。
「……あっ」
俺はそのキーホルダーを見て、思わず声が出てしまった。慌てて口を押さえ、女子達の方を見たが誰にも気付かれていなかった。
片耳の取れたテディベア。
それは、俺が戸畑にクリスマスプレゼントとして贈ったキーホルダーだ。プレゼントをしてしばらくすると、どこかへ引っ掛けたのか、いつの間にか片耳が取れてしまった。その事でとても悲しそうな顔をしていた戸畑。
「新しいのを買うけん、そげん落ち込まんで」
「……ううん、これで良かよ。だって、これ、八幡君から初めて貰ったプレゼントやけん」
ふとあの時の事を思い出してしまう。
まだ、その女子はテディベアを触っている。そして、それをふにふにと揉みながら、戸畑へと言った。
「もう外し?私が新しかテディベアば買ってやるたい」
「……ううん、これで良いと」
「これってそげん大切な物なん?」
「うん、私の宝物やけん……」
そう呟いた戸畑の声が、俺の耳へと届いた。小さな声だったのに、はっきりと強く。
俺は思わず戸畑を見てしまった。すると、戸畑も俺の方を見ており、視線が交差した。
すぐに視線を逸らす俺と戸畑。
俺は何も悪い事をしていたわけではないけど、そそくさと逃げるように教室から出て行った。
「うそっ?!で、どうしたん?」
「断ったよ?」
「まじで?結構イケメンらしいやん?」
「それでもね……」
俺らの斜め前の席に数人の女子が集まりお喋りに夢中になっている。内容は女子の大好きな恋話。その女子達の話題の中心にいるのが女バレの戸畑奏音。彼女が動くたびにポニーテールが左右へと動く。
「てかさ、戸畑って彼氏おるらしいやん?」
女子達の話しを聞いていたのか、俺と一緒にいた男バレの真田が俺だけに聞こえるくらいの小さな声で言った。俺はちらりと戸畑を見たが、すぐに視線を元に戻した。
「……ふぅん。そったい」
「なんね興味無さげやね」
「そだね」
「お前、モテんのにまるで女子に興味なかもんなぁ……もしかして……」
俺はその先を言われる前に、真田の額にデコピンをかましてやった。
正直な気持ち、戸畑に全く興味が無いわけではなかった。
俺は戸畑と以前、付き合っていた。中一の十一月から三月、春休みに入る前まで。皆に内緒でバレないように付き合っていた事もあり、誰も知らない。
そして、俺達二人は、なんだかんだあってすれ違い、春休みを挟み、二年へ進級後はクラスも別になり、また、あの頃の二人共、スマホなんて持っておらず、自然消滅という結果に終わった。
たった五ヶ月だけの交際。
でも、今思えば、それで良かったと思っている。
戸畑はあの頃から比べ、容姿だけではなく色々な面で、とても成長した。
今の俺と戸畑では釣り合わない。
そんな事を考えていると昼休みの終わりを報せる予鈴がなった。真田が自分の席へと戻っていく。そして、俺はもう一度、ちらりと戸畑へと視線をやった。
「このテディベア、片耳取れとるし汚れとるやん?新しいのば買わんね?」
帰りのHRが終わり、ざわつきの残る教室で俺が鞄へと教科書などを入れていると、斜め前の席から一際大きな声が聞こえてきた。
どうやら女バレの連中の話し声である。
一人の女子が戸畑の鞄についているキーホルダーを手に取って笑っている。俺はふと、そのキーホルダーに目を向けた。
バレーのユニフォームを着たテディベアの人形がついたキーホルダー。そのテディベアの片耳が取れている。
「……あっ」
俺はそのキーホルダーを見て、思わず声が出てしまった。慌てて口を押さえ、女子達の方を見たが誰にも気付かれていなかった。
片耳の取れたテディベア。
それは、俺が戸畑にクリスマスプレゼントとして贈ったキーホルダーだ。プレゼントをしてしばらくすると、どこかへ引っ掛けたのか、いつの間にか片耳が取れてしまった。その事でとても悲しそうな顔をしていた戸畑。
「新しいのを買うけん、そげん落ち込まんで」
「……ううん、これで良かよ。だって、これ、八幡君から初めて貰ったプレゼントやけん」
ふとあの時の事を思い出してしまう。
まだ、その女子はテディベアを触っている。そして、それをふにふにと揉みながら、戸畑へと言った。
「もう外し?私が新しかテディベアば買ってやるたい」
「……ううん、これで良いと」
「これってそげん大切な物なん?」
「うん、私の宝物やけん……」
そう呟いた戸畑の声が、俺の耳へと届いた。小さな声だったのに、はっきりと強く。
俺は思わず戸畑を見てしまった。すると、戸畑も俺の方を見ており、視線が交差した。
すぐに視線を逸らす俺と戸畑。
俺は何も悪い事をしていたわけではないけど、そそくさと逃げるように教室から出て行った。