狂犬に愛される覚悟

ガン━━━━！！
零王がカウンターを殴る音が、店中に響く。
零王の怒りで、圧迫される店内。

｢零王さん！すんません！｣
仁朗が零王に土下座して、謝罪する。
｢仁朗…お前、死にたいの？｣
｢う…がっ…！｣
零王が仁朗の頭を踏みつけた。

｢零王、やめろ！？
いつも言ってんだろ！？飲み会の時だけは、無礼講だって！｣
朝陽が羽交い締めにして止める。
｢わかってるよ！！
でも…コイツが愛妃を傷つけたんだぞ！｣
｢零王！愛妃ちゃんのとこに早く行ってやれ！｣
律の言葉に漸く落ち着き、トイレに向かう零王だった。

トイレでは、愛妃が一人個室に籠り泣いていた。
自分で自分がわからなかった。
零王のことを狂犬や野獣と言われたことに、腹が立ったのか、自分だけが零王のことを知らないと言われたような気がして、悲しかったからなのか。

零王が可愛い犬系男子だけではないことは、わかっている。
でも…少なくとも愛妃の前では、可愛い子犬のような零王なのだ。
零王が総長を務めている為、他のチームに狙われることはあった。
その度に零王が助けてくれていた。
もちろん、その時の零王は可愛い犬ではない。
それこそ、怖い野獣のようだった。
零王が野獣のような自分を隠しているのも、なんとなく察してはいる。

きっと愛妃が本当は争いや暴力が嫌いだから、見せないように隠してくれているのだ。
自分がそんな風にさせていることに、心のどこかで罪悪感のようなものをずっと持っていたのだ。
だから、仁朗に当たったのだ。

｢最低だ…私…｣
好きな人に、気をつかわせているなんて………

｢愛妃！？出てきて！｣