狂犬に愛される覚悟
「律、ゼロ、ご苦労さん」
ここでも零王はソファに座り、足をガラステーブルの上に乗せた。
「組長の前でこんな態度…零王さんだけだよな……」
「スゲー、若でもできねぇのに……」
組員達が、こそこそと口々に話している。

「親父、これ奴等が持ってた薬。
とりあえず回収してきた。
あと仲間の居場所聞きそびれた…
零王がボコボコにすんだよ…!」
「まぁいいよ…それ目的だったとこもあるからね」

「ねぇ…」
「んー?」
「愛妃のことって、そんなに目ぇつけられてんの?」
「そりゃあ、零王の女だからな!
唯一の弱点だろ?」
律が答える。
「まぁ…そうだけどよ……」
「でも逆もあるんだよ!」
そこへ、竜郎が口を挟んだ。
「逆?
親父、逆って?」
「弱点ではあるが、怒りのスイッチでもあるだろ?
だから、会っておきたいんだよ」
「会わせねぇよ…!」
「何故だ?」
「じゃあ…今度の飲み会に親父がちょっと顔出せよ!
それだったら、絵美もいるしいいんじゃね?」
律が提案する。
絵美は、律の妻で愛妃の唯一の女友達だ。

「………それなら…愛妃も絵美に会いたがってるし…
気に入らねぇけど……」
「じゃあ、そうするか!
……って、絵美にヤキモチ妬くなよ…!」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
律の実家を出て、そのまま愛妃の勤め先のショップに向かう。
ショップ前でバイクを止め、煙草を取り出した。
煙草を吹かしながら、ガラス越しに中を見る。
愛妃が笑顔で接客をしている姿を見つめる。

実は毎日愛妃の仕事終わりの十数分前に来て、ここで零王は愛妃の仕事を見ているのだ。
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