幼馴染は片思い中
「それがどうしたの?」

「…望月君に、牧君の連絡先とか
教えてもらえないかなって…」


ほんのり赤く色付いた顔で
あいりちゃんは小さく言う

そんな表情を見て
気付かないほど、私は鈍感じゃない



「……あいりちゃん、牧君のこと
気になってる?」


指摘すれば、瞬く間に
あいりちゃんの顔に熱が広がる

隠すように両手で押さえながら
あいりちゃんは視線をさ迷わせて

それから、こくんと頷いた


「会ったり、話したりしてないの?」


あれからもう、しばらく経つ

私も日山さん……あいりちゃんと
お互い名前で呼び合うくらいには距離が近付いていた


「…あの後、一度だけ」

「そっか」

「………善意だって
正義感からだって分かってる
でも、あんな風に助けてもらったのも
……優しくしてもらったのも、初めてだったから」


あの後、ふたりの間に
どんなやり取りがあったのか
私は知らない



でも



「…私、単純だから
すごく嬉しくて、それで…
…………すごく、好きだなって思ったの」


あいりちゃんが牧君に恋をしてるのは
言葉にされなくても分かった


「うん」

「……でも、気持ち悪いかな…?」
善意で助けた相手に好意を向けられたら…」


不安そうにうつ向くあいりちゃん
覗き込んで、笑顔を向ける


「応援する」


相手の気持ちなんて
本人にしか分からない

良い方か悪い方か

どう転がるかなんて
誰にも分からない


大事な友達のために
今の私が出来るのは、それだけ


気持ちを伝えるように
その手を握れば
丸くなっていた目が柔らかく細まる


「……ありがとう。ゆたかちゃん」
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