幼馴染は片思い中
愛おしそうに、私を見返す朔君

見たことのない優しい表情に
見惚れていると
急に朔君が、真顔に戻って
じっと、私を見つめて、問い詰めてくる


「で。俺を避けてた理由は?」

「…」

「引っ越し云々は違うんだろ?」


みっともないところも、情けないところも
もう、たくさん見られた

必死に隠してた本音だって
全部、言ってしまったも同然

あれだけ、醜態をさらしたから
もう今さらだ

腹をくくって答える


「………朔君が、うちに泊まった日の夜」

「やっぱ、それか」


避け始めたのは、その日以降
だから、理由があるなら
その日にあった出来事だと
朔君も察してはいた様子


「…」

「悪かった。薬を飲ませるためとは言え
無理矢理キスしたのは」

「…へ?」


思いもよらない発言が返ってきて
間の抜けた声を出してしまう

私の反応に朔君は
ん?と疑問符を寄越した


……


「違うの?」

「……朔君に本音をぶつけちゃったのが
恥ずかしくて、情けなくて…
気まずくて、逃げてた」

「本音って…
避ける程のセリフ、お前、言ったか?」

「わ、私にとっては、大きなことだったのっ」


案の定、朔君はあの日の私の言動を
気にも留めてなかった

確かに、言葉にして
全部を朔君にぶつけたわけじゃないけど

いつも、抑えてる気持ちを、隠していたものを
執着心や独占欲、そういう感情の一部を
見せてしまったのは事実だから

私には大事(おおごと)だった


だけど、今はそれよりも―…



「…それよりも……キスって…」

「お前、熱上がってるのに
薬飲むの嫌がるから」

「…」

「で、強制的に」

「……覚えてない」

「まあ、無理矢理したのは事実だから
それは、ごめん」

「いいよ」

「軽いな」

「だって、朔君だから
朔君になら、なにされてもいいよ」

「…お前、本当そればっか」

「だって、好きなんだもん」


…驚いたけど

朔君になら
何をされてもいいって思ってるのは本当

朔君にされて嫌なことなんて何もない
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