レインコートもいいけど、傘は必要
「話しても…いいかしら……」
やっと聞き取れるぐらいの小声で、姫井は語り始めた。
「うん……」
星野は顔を上げて、雨雲を見つめたまま返事をする。
「小学校低学年の時なんだけど、学校の外は今日みたいに小雨が降ってたわ。放課後、傘をさして生徒玄関を出た直後……私が持ってた傘の先端に、雷が落ちてきたのよ」
星野は何も言わずに、小さく頷いて話を聞く。
「強い衝撃を体に受けた後の記憶がないのよ。気づいたら病院のベッドで寝てたし……傘を持っていた左手を見ると、手の平に火傷の後が残っていたわ……」
姫井はスカートのポケットから左手を差し出す。
そして、星野の目前に向けて手の平を広げて見せた。
「だから、手すりを掴む時も右手で……左手は目立たないように隠してたんだ……」
現実を見せつけられた星野は、ショックで言葉がでてこない。
「トラウマなのよ。雨の日の放課後に、傘をさして外へ出たら……また雷に打たれてしまうんじゃないかって……」