レインコートもいいけど、傘は必要
2.顔見知りの女子生徒 ~ side 星野 拓也 ~
僕、星野 拓也は地元から少し離れた高校へ通うため、登下校の足として鉄道を利用していた。
単線路線の列車は、各駅で必ず停車する。
僕が乗り込む場所から二つほど先の駅に、顔見知りの女子生徒が制服姿でホームに立っていた。
それはクラスメイトの姫井 渚で、同じ時刻の電車に必ず乗車してくる。
長い髪を右手でかき上げながら、顔を俯かせて乗り込んでくる姿は彼女の定番スタイル。
姫井 渚が乗り込んでくる駅から乗客が急に増えるため、電車内は人で混雑する。
通勤時間と重なってしまうので、避けようがない状況。
必然的に、彼女は立ったままになってしまう。
すべての乗客が乗り込むと、汽笛を鳴らして静かに電車は走り出す。
制服姿の姫井は体が細身で、車体が左右にゆれるたび足下をフラフラとさせている。
毎朝、僕の視界に入ってしまうので、いつの間にか彼女のことが気になる存在になっていた。
手すりを持つ右手も弱々しく、列車に揺られながら立ってる姿を見てられない。
それなのに、左手をスカートのポケットに入れたままなのでバランスが悪そう。
僕が乗る駅は、乗客が少ないので必ず椅子に座ることができる。
なので、申し訳ない気分のまま学校のある駅まで姫井を見守っていた。
静かな田園風景の単線路線を走って進む鈍行の電車は、同じ高校の同級生と会うことはめったにない。
だから、余計に姫井のことが目についてしまう……