新人メイドと引きこもり令嬢 ―2つの姿で過ごす、2つの物語―
 男は娘をベッドに降ろし、離れたところに座る。

「あ…」

 彼の温もりが離れ、なぜか少しだけ寂しさを感じた。

「?なんだ?…俺に触れられたくなかったんじゃないのか…?今これ以上は、理性が保てそうにない…」

 娘は戸惑ったが、意味を理解したとたん顔を真っ赤にして急いで首を振る。
 男はそれを見て少し笑ったようだった。

「…それで、お前は本当に主人の花嫁になりたいのか…聞かせてくれ…」

 彼女は戸惑いながら口を開いた。

「…私、好きになった人でもないのに…何も知らない相手であるご主人様と、結婚なんてしたくありません…。でも、父と母が…両親が望んでいるから…」

 泣きたくなるが、なんとかこらえて続けた。

「…言えなかった…ここのご主人さまの花嫁候補に私が選ばれて…ここに来るのが決まって、二人とも喜んでくれたんです。私はご主人様にも屋敷の人たちにも、きっと嫌われています…でも、追い出される前に、何かここで役に立ちたい…」

 小さく頷きながら聞いていた男は、下を向いて口を閉ざしてしまった。
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