新人メイドと引きこもり令嬢 ―2つの姿で過ごす、2つの物語―
「リリシア…!」

 黙って聞いていた彼は悲しげに令嬢の名を呼んだ。

「私…私…」

 何も言えず泣き出す彼女を男はそっと抱きしめた。

「…俺と、一緒にならないか…?」

「え…」

「…嫌か?…俺は、お前と共にいたい…」

「…私も、あなたの事…。でも、私はご主人様の花嫁候補で…」

 娘の言葉を聞いた彼はポツリとつぶやいた。

「…俺が…お前と自由に生きられたなら、どんなに…幸せだろう…」

 抱きしめた彼は震えていた。

「コウさん…私はどうしたら、あなたとずっと一緒にいられるんでしょう…。令嬢としてじゃなく…一人の女の子として、あなたと一緒にいたい…」

「…」

「ご主人様に選ばれなくていい…今すぐここを出て、あなたとずっと一緒にいたい…」

「リリ…」

 娘の顔に、男の顔が近づく。
 娘は目をそっと閉じてその時を待ったが、彼は娘の体をそっと離した。

「…このままではダメだ…。…いつか、きっと…」

「コウ…」

 悲しげな彼を気遣おうと声を掛けるが、

「また来る…」

彼はそう言って部屋を出ていった。

 娘は男が去ったあと一人涙し、しばらくぶりに眠れぬ夜を過ごした。
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