新人メイドと引きこもり令嬢 ―2つの姿で過ごす、2つの物語―
 あらわになった肌に男は手を滑らせる。

「い、嫌ですっ…やめて下さい、こんなこと…!これは…愛し合っている人とするべきです…!」

「っ…黙れ!!お前も、好きでもない男のもとに候補として来ているんだ!!」

「そんな…」
(…お父さんとお母さんが望んでいるから…大好きな二人のために…私だって本当は、好きになった人と結婚したい…!)

「…所詮は金持ちの娘か…!そんなに主人の妻の地位と財産が欲しいか!?」

 娘は押さえつけられたまま強く首を振り、泣きながら叫んだ。

「こんなの、間違ってます…!!私だって…!!」

男は娘の迫力に気圧され、押さえつけていた手を離した。

「…。」

 男は無言のまま、泣き続ける娘から離れ、先程出てきた場所に向かう。

「あ…」

「…俺から、逃げられると思うなよ…嫌なら逃げ出すんだな…」

 男は薄暗い部屋からいつの間にか消えた。
 彼女は呆然としていたが、すぐに乱された服を整え、男が現れた辺りを見る。
 しかし、薄暗い中でよく見えず、すぐに諦めるしかなかった。

(一体、誰だったの…?怖い…けど、誰かに言ってもきっとあの人の言う通り、誰も私を信用してはくれない…。…またきっとあの人はくる…。私は…何のために…)

 まだ外も暗いが、先程のこともあり寝直せるはずもない。
 娘はこっそりと荷物に入れておいた布と裁縫道具を取り出し、部屋にあった小さなテーブル用にと、テーブルクロスを作り始めた。

(このままじゃ、私のここにいる意味が無くなっちゃう…何でもいい、誰かに必要とされたい…)

 娘はそう考えながら自分を落ち着かせるためにクロスを作り始め、やがて夜が明けていった。
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