新人メイドと引きこもり令嬢 ―2つの姿で過ごす、2つの物語―
「え…と…これでいかがですか?私、ここのためにも何かしたいんです、お願いします!」

 執事は呆然と彼女を見つめる。

「ご主人様は私の顔をあまり見ていないはずです。これならすぐには分からないと思いますから…」

 執事も流石に困惑しているようだった。

「しかし…」

「知られてしまったら私がお叱りを受けます…。しかし、好きなように過ごすようにとのこと、私の好きなようにはさせてくださいませんか…?」

「…。」

 執事はしばらく黙っていたが、

「…分かりました…。申し訳ありませんが御主人様には申し上げず、内密にさせて頂きます、くれぐれもお気を付けくださいますよう。…こちらへ」

 そう言って、変装した彼女を連れ出した。

「ありがとうございます!一生懸命頑張ります!」

「…変わった方ですね…」


 連れてこられた場所は厨房だった。

「失礼いたしますよ、シェフ」

「ああ、どうかしましたか?…その娘は?」

 野菜を切っていた一人のシェフが執事と娘のもとに来て、彼女を見て言った。

「訳ありでして…少しの間、彼女の面倒をみてやっていただけますか?」

「あなたの頼みですから!…で、料理経験は?」

「それは…」

 執事は口ごもる。
 彼女はここぞとばかりに張り切って答えた。

「はい、家ではお手伝いさんと一緒に作っていましたから、家庭料理は出来ます。野菜は切り方を教えてくだされば…あっ…!!」

 やっと自分が令嬢としてここに来たことを思い出し、唖然としている様子の執事を見て気まずくなる。
 シェフはそんな様子に全く気付くことも無く、

「俺一人だからな、手伝いは少しでもありがたいもんだ!」

 そう言って娘の肩をポンと叩き、挨拶もしないうちに厨房の奥に娘を連れて行った。

「“リン”…また様子を見に来ますから…」

 執事は機転を利かせ、偽名で彼女を呼びそう言い聞かせる。

「はい、ありがとうございます!」
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