娘は獣の腕の中
日も暮れ、獣が部屋に入ってきた。
「やはり食わなかったか…仕方がない…。風呂が出来た。来い。」
娘は小さく首を振った。
「嫌です…愛するお兄ちゃんを殺した…あなたの言うことは…聞きたくありません……」
憔悴しきった娘はベッドの上で力無く泣いた。
「…俺が憎いか…?そうだろうな…憎め……それでもいい……」
続けて獣は娘に聞こえないほどの小さな声で呟いた。
「…お前が生きていてくれるなら…『いつか』を信じて……」
娘はベッドから動かない。獣は何も言わずに部屋を出ていった。
夜、風に乗って誰かの声が聞こえ、娘は気が付いた。
(夜……?…近くで…誰かの声が聞こえた気がした…でも、森の中で…??)
人もほぼ住まない森の中の一軒家に、誰もこんな夜更けに近づくはずはない。そう、娘の愛する男以外は…
「…お兄ちゃん…!」
娘は駆け出し、獣のことも忘れて外への扉を開いた。
暗い森の中、かなり遠くだったが黒い何かが見え、そしてその横には人間の姿が見えた。
「お兄ちゃん!!お兄ちゃん!!」
外に出られない娘は必死にその人間に向かって声をかけた。
その人間はこちらに気付いたようだったが、そのとたん、黒い影から手のようなものが見え、人間は倒れ込むように高い草木の影に隠れてしまった。
「あれはお兄ちゃんだ…!でも、近くにいたのは…?」
次の瞬間、人間のいたあたりの陰から獣が飛び出し、娘は咥えられて家に戻された。
「っ…あなた、嘘をついたのね…!お兄ちゃんは生きていたわ!」
「…っ…違う!あれは俺の餌になった人間だ…!!…人間の顔を見たのか…?お前が、俺が『餌』を喰らうところを見たくは無いだろうと気を利かせてやったのに…」
娘はベッドに押し倒された。
「きゃっ!!」
「もう寝ろ…!」
獣は娘を後ろから抱きしめるようにして押さえつけ横になった。
(私にはわかる…あれはお兄ちゃんだ…!きっと近くに獣がいたから逃げたんだ、きっと生きてる…生き延びてる…!!)
獣は娘に手を出すこともなく、そのまま眠ったようだった。
娘も、男が生きているかもしれない期待を胸に、逃げることも諦めて獣の腕の中で眠りについた。
「やはり食わなかったか…仕方がない…。風呂が出来た。来い。」
娘は小さく首を振った。
「嫌です…愛するお兄ちゃんを殺した…あなたの言うことは…聞きたくありません……」
憔悴しきった娘はベッドの上で力無く泣いた。
「…俺が憎いか…?そうだろうな…憎め……それでもいい……」
続けて獣は娘に聞こえないほどの小さな声で呟いた。
「…お前が生きていてくれるなら…『いつか』を信じて……」
娘はベッドから動かない。獣は何も言わずに部屋を出ていった。
夜、風に乗って誰かの声が聞こえ、娘は気が付いた。
(夜……?…近くで…誰かの声が聞こえた気がした…でも、森の中で…??)
人もほぼ住まない森の中の一軒家に、誰もこんな夜更けに近づくはずはない。そう、娘の愛する男以外は…
「…お兄ちゃん…!」
娘は駆け出し、獣のことも忘れて外への扉を開いた。
暗い森の中、かなり遠くだったが黒い何かが見え、そしてその横には人間の姿が見えた。
「お兄ちゃん!!お兄ちゃん!!」
外に出られない娘は必死にその人間に向かって声をかけた。
その人間はこちらに気付いたようだったが、そのとたん、黒い影から手のようなものが見え、人間は倒れ込むように高い草木の影に隠れてしまった。
「あれはお兄ちゃんだ…!でも、近くにいたのは…?」
次の瞬間、人間のいたあたりの陰から獣が飛び出し、娘は咥えられて家に戻された。
「っ…あなた、嘘をついたのね…!お兄ちゃんは生きていたわ!」
「…っ…違う!あれは俺の餌になった人間だ…!!…人間の顔を見たのか…?お前が、俺が『餌』を喰らうところを見たくは無いだろうと気を利かせてやったのに…」
娘はベッドに押し倒された。
「きゃっ!!」
「もう寝ろ…!」
獣は娘を後ろから抱きしめるようにして押さえつけ横になった。
(私にはわかる…あれはお兄ちゃんだ…!きっと近くに獣がいたから逃げたんだ、きっと生きてる…生き延びてる…!!)
獣は娘に手を出すこともなく、そのまま眠ったようだった。
娘も、男が生きているかもしれない期待を胸に、逃げることも諦めて獣の腕の中で眠りについた。