娘は獣の腕の中
(あのひとがこれを…?それに、私の名前を知っていたみたい…あの獣は一体……)

「ううん、まずは感謝して食べなきゃ…」

食べ終わり片付けると、娘は男の家を掃除しはじめたが、昨晩の獣の様子が気になって仕方がなかった。


帰ってきた獣に娘は、思い切って聞いてみることにした。

「なぜあなたはお兄ちゃんを…食べたの…?」

「……人間を…喰らいたいと思った矢先にいたからだ……」

「…なぜ私を閉じ込めたの…?私、何かに阻まれて外に出られないわ。あなたの力のせい…?それにあの食事は……」

獣は話も途中に、娘に飛びかかった。

「きゃ!!」

「…煩い小娘だ…。お前はただの餌…大人しく…抱かれていればいいものを…!黙らねばお前を喰らってやるぞ…!!」

そう言うと獣は牙を剥き、娘の首元に口を寄せた。娘は涙に濡れた目を、そっと閉じて言った。

「…お兄ちゃんに…もう、二度と会えないなら…あなたの…餌になっても…かまいません…」

「…っ……」

獣は目を背けたが、次の瞬間、獣の前足は娘の首元を押さえた。

「っく…!!」

首を締められた形になり娘が苦しむと、獣はハッと我に返ったようになり、叫んだ。

「や、やめてくれ…!!殺したくないんだ!!頼む…!!」

次の瞬間、獣の前足がすぐに動き、娘の首元から離された。

「っ…げほっ、けほっ…!」

「頼む…もう死ぬことを望まないでくれ…!!お前を殺したくない…!」

獣は辛そうにそう言うと、ベッドの上で娘を寝かせ、娘を抱きしめるように身体を優しく前足で包んだ。
娘は唖然とした。

(何が…起こったの…??殺そうとしたのに…)

娘を抱きしめた獣は震えていたが、娘からは獣の顔を見ることはできない。

(…どうして……)

娘はまた獣に包まれ、眠れぬ夜を過ごした。


「あっ…やあっ…!!」

「グルルル……!!」

次の夜、獣は興奮したまま娘をまた抑えつけ、交わった。

「やぁぁぁ!」

獣は荒く息を吐きながら、やはり取り憑かれたように娘を貫き続け、やがて二人は果てた。

外からはまた、どこからか風に乗って誰かの笑う声が聞こえていた。
< 6 / 18 >

この作品をシェア

pagetop