金魚鉢
優ちゃんと付き合ってから、私たちはお昼休みも一緒に過ごすようになった。

 今日も今日とて、その日課は変わらないわけで。


 私はプチトマトを頬張る優ちゃんに向かって話しかけた。


「ねぇ、優ちゃん?」


「うん?」


「あのさ、今日の帰りなんだけど」


「どっか寄りたいところでもできた?」


「ううん、そうじゃなくてね。今日は、なっちゃんと帰りたいかなって思うんだけど、その……」


 申し訳ないと思って、私は顔を俯かせる。

 すると、優ちゃんは朗らかに笑って、優しく私の頭を撫でてきた。


「あはは、そんなに申し訳なさそうにしなくてもいいよ。もう、本当に琴は可愛いなぁ」


「え、いいの?!」


 そう言って顔を上げた私の瞳は、いつにも増して輝いていたことだろう。


 あぁ、ようやく、この息苦しい場所から抜け出せる。


 そんな風に思った私がいた。


 だけど、優ちゃんは相変わらず穏やかに笑っていて。

 その姿にどうにもこうにも、後ろめたく思えて、私は話を続けた。


「あの、その、帰りにね。カフェに寄ろうって話になったの」


「うん。本多さんも、琴も、本当にカフェとか好きだよね」


 どこまでも、どこまでも。

 優ちゃんはきっと私に甘いんだ。


 果てしなく変わらない、その優しい口調と笑顔に、私は思わず反吐が出そうになった。


「じゃあ、今日は別々に帰ろうか」


 遠くの方で、優ちゃんの声が聞こえる気がする。


 私、どこかおかしくなっちゃったのかもしれない。


 優しくて、かっこよくて、マメで、完璧な、非の打ち所のない、彼氏なのに。


 どうして、"気持ち悪い"なんて酷いことを思ってしまうんだろう。


 ……なっちゃんに相談したいな。
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