君との子がほしい~エリート脳外科医とお見合い溺愛結婚~
あれだけ非道なことをしておいて、どの面を下げて彼女の前に現れたのだろうか。
この男のせいで舞花がどれだけ悲しみ苦しみ、事故を起こして記憶障害にまでなったことか。一切、何も知らないのだろう。
ふつふつと込み上げる怒りの中で、生まれて初めて頭に血が昇っていくという感覚を味わう。
「舞花は俺の妻だ。お前はもう過去に葬り去られた存在なんだよ」
「つ、妻って……舞花の──」
「気安くその名を口にするな」
もう感情のコントロールには限界がきていた。
場所も立場も考えず、男の胸倉を掴んで勢いよく壁に叩きつける。
男は血の気の引いた顔をして目の前の俺を凝視していた。
「まぁ……お前が手放してくれたお陰で舞花は俺のものになったからな。そこだけは礼を言っておこう。今、すごく幸せだからな」
掴み上げていた胸倉から手を放された男は、ふらっとその場によろける。
怯えたような顔をして俺を見ていた。
「もう二度と、舞花の視界に入ろうと思うな」
最後にとどめを刺すように睨みを利かせると、男は慌てた足取りで立ち去っていく。
その姿が見えなくなっても、しばらく男が消えていった通路の先を鋭い視線で見つめていた。