君との子がほしい~エリート脳外科医とお見合い溺愛結婚~
「時間はかかっても、トラウマはきっと乗り越えていけるって公宏さんが言ってたから。本来の自分のまま、ちゃんと普通の夫婦になれる日がくるって信じて頑張ろうと思って」
揚げ物をする母の横顔を盗み見ると、そこにはどこかホッとしたような表情が滲んでいた。
高校時代のあの出来事から、母は自分を責めることばかり繰り返してきた。
何も悪くないのに、自分の至らなさが招いたことだと嘆いたことを何度も目にしてきた。
あの夏の日のトラウマに囚われているのは私だけではない。きっと、母も同じなのだ。
私の幸せをいつも一番に願っている母に、これからは穏やかで温かな気持ちだけを感じてほしい。
「ほら、お母さんにも、落合先生ご夫婦にも、子どもを抱いてもらわないとだしね。まだ先になっちゃうかもしれないけどさ」
揚げ物を終えて火を止めた母は、今度は煮物を作る鍋の様子を窺いながら「舞花、変わったわね」と言う。
その顔はにっこりと笑みを浮かべていて、私と目を合わせるとより目尻の皺を深めた。