君との子がほしい~エリート脳外科医とお見合い溺愛結婚~


 陽が落ちても寒さもなく、過ごしやすい季節になった。

 食事を終え帰ってきた独り暮らしのマンションの部屋。

 玄関の扉を開けると中は真っ暗でしんと静まり返っている。


『娘の話なんだけどね。実は、もうすぐ結婚することになったのよ』


 靴を脱ぎながら、ふと、さっきの聡子さんの嬉しそうな声が耳の奥で蘇る。


「結婚、か……」


 結婚をして家庭を持つ。やがて子どもが生まれれば家族が増える。

 こうして帰宅すれば明かりがついていて、誰かが「おかえり」と出迎えてくれるのだろう。

 その感覚や雰囲気が、俺には全くわからない。

 家で誰かが「おかえり」と迎えてくれた経験も、帰宅して家族に「ただいま」と言ったことも、今までないからだ。

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