君との子がほしい~エリート脳外科医とお見合い溺愛結婚~


 物心ついた頃、俺にはすでに両親がいなかった。

 事故で両親を亡くしたと聞かされたが、親というもの、家族という存在を知らなかった俺には、悲しいや寂しいという特別な感情が動くことはなかった。

 幼い頃から施設で生活をし、高校三年、十八までお世話になった。

 自分の置かれた環境が周りの友人たちと違うことを意識するようになった頃から、親がいなくても人並みに、できるならそれ以上の人生を送れるようにと自ら努力した。

 そんな思いから、学生時代はひたすら勉強に明け暮れた。

 その甲斐あって、現役で国立の医学部に進学。奨学金制度を受けて医師の道を目指した。

 子どもの頃からの努力が報われ、医師としての道を歩み始めてからは充実した日々を送っている。

 だからなのかもしれない。

 最近、ふとしたときに〝家族〟というものを考える。

 結婚をしたら幸せだろうか。

 家族ができたら幸せだろうか。

 誰かと人生を歩んだ経験のない俺には、そこにまだ自分の知らない幸せがあると信じている。

 灯りの灯る明るい家に帰ってみたい。

 ただ漠然と、そんなことを思い始めていた。


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