君との子がほしい~エリート脳外科医とお見合い溺愛結婚~
2、幻だった幸せ
六月最初の週末、土曜日。
昨日は九時過ぎにはベッドに入り目をつむったけれど、なかなか眠りにつけなかった。
それでも肌のためにと粘って目をつむり続け、結果私の粘り勝ち。いつの間にか夢の世界に旅立っていた。
夢は見なかった。そのおかげか五時には気持ちよく目が覚めて、白湯を一杯飲みながら、いつも通りバルコニーで育てている植物に水を与えた。
「舞花、おはよう」
「おはよう」
温かいカフェオレを入れダイニングテーブルに掛けたところで、母がリビングに顔を出した。
まだ六時を過ぎたばかり。
昨日も日付が変わる頃に帰宅した母が起きるには早すぎる時間だ。
「まだ寝てればいいのに」
「うん……目が醒めちゃって」
そう言った母についふふっと笑ってしまう。
私と同じように、今日の日を楽しみにしてくれているからに違いない。
母が私を産んですぐの頃、私の父親はバイク事故で帰らぬ人となった。
それからずっと、母は女手一つ小料理屋をひとり営みながら私をここまで育ててくれた。
たくさん苦労をかけてきてしまったから、今日の日は私にとって母へ感謝を伝える日でもある。