君との子がほしい~エリート脳外科医とお見合い溺愛結婚~
『終わりにしよう』
一転して、静かな声で告げられる別れの言葉。
何か言わなくてはいけない。そう焦燥感に襲われているうちに『元気で』と本当に最後の声が耳に届く。
「ぁ、待っ──」
咄嗟に呼び止めたときには通話は終わっていて、耳から離した画面は何事もなかったように壁紙が表示されていた。
スマートフォンを持ったまま、式場の前で立ち尽くす。
結婚式……なくなったのか……。
自分の身に起こっていることなのに、どこか他人事のような感覚に陥る。
とぼとぼとその場を歩き出してから、激しく高鳴っている鼓動に胸を押さえた。
話しているときにはよくわからなかった智志くんの言葉の数々。それが今になってその意味を思い知らせてくる。
『これだけ付き合ってきて、結婚の約束までしたのに、舞花が一度も体を許してくれなかったからだろ? そんなやつと結婚できる男なんていない』
過去の心の傷を打ち明けた上で、付き合うことはできないとはじめに断った。
満足な男女の付き合いは自分にはできない。そう思ったから。
それでも構わないと言ってくれたことが嬉しくて、初めて男性とのお付き合いに踏み切った。
こんな私でも智志くんは受け入れてくれた。
私はその気持ちに、甘えすぎてしまったのだろうか。