君との子がほしい~エリート脳外科医とお見合い溺愛結婚~
「やっぱり、あのときの……」
久世先生のほうも私が以前に付き添いで来院したことを覚えていたのだろうか。
〝あのとき〟と言われて、会釈をする気持ちで頭を動かした。
「その節は、お世話になりました」
「いや、とんでもない。今度は先生のほうを診ることになるとは思いもしなかったけど」
やっぱり、私があのときの幼稚園の先生だと気づいたようだ。
「歩道橋の階段から転落して、救急搬送されたんだけど、覚えてます?」
「はい。人とぶつかって、それで落ちたのは……」
「そっか、覚えてるか。頭のほうは特に外傷もなく綺麗です。搬送されてすぐCTも撮影して確認したけど、特にオペが必要になる症状もない」
頭を強く打った覚えもあるし、その上階段も結構な高さから転がり落ちたと思われる。
それでも大きなケガをしていないことは幸いでホッと安堵する。
「打ちどころが、良かったということでしょうか?」
「まぁ、そんなところかもしれない」
「そうですか。良かった……」
「ご家族に連絡がついたそうなので、こちらに向かわれていると思います」
久世先生にそう言われて、それまでに起こったことが一気に思い出されていく。
そうだ。お母さんに、話さなくちゃ……。
今朝、声を詰まらせながら「おめでとう」と祝福してくれた母の幸せそうな顔を思い出すと、胸が押し潰されるように息苦しさに襲われた。