君との子がほしい~エリート脳外科医とお見合い溺愛結婚~
「では……ごちそうさまでした」
いいのだろうかという思いでお礼を口にした私を、久世先生は満足そうに「そう、それで良し」なんて言う。
男性とふたりで食事に行ったことなんて、智志くんくらいしか過去にない。
他に経験がないから、支払いひとつ取ったってどうしたらいいのかわからないのだ。
駐車場を出た車は、夜の六本木の街を走り始める。
窓の外をぼんやりと眺め、行き交う人々を人間ウォッチングしていると、ふと病院での会話が蘇り口を開いた。
「そういえば、診療の延長と言っていましたが、どうでしたか? 私」
今日の目的は、久世先生の食事に付き合いながら私の状態を診てもらうことだった。
ただ普通に話しただけだったけど、何かわかったのだろうか……?
「あの、病院では記憶のことも言ってましたよね? 気にしなくていいと言われましたが、やっぱり気になります」
健忘症──その可能性があると久世先生は言っていた。
何を忘れてしまったのか。本当に失っている記憶があるのか。それから頭の片隅でずっと気にかかっている。