君との子がほしい~エリート脳外科医とお見合い溺愛結婚~
「少しの時間一緒に過ごしてみて、一部記憶を失っているのは間違いないと思った」
「え……」
「明らかに、初めて会ったときの様子と違う」
初めて会ったとき。それは、みみちゃんの診察で来たときのことだ。
そのときと今と、自分で何が違うのかわからない。
「あの、それって、階段から落ちて、その衝撃で記憶が飛んでしまった……みたいな状態なんでしょうか?」
「そういう場合もあるし、心因性もある」
「心因性……?」
「何かショックを受けて突如、ということ」
ショックを受けて……。
あの日のことは薄れずはっきりと記憶に残っている。
階段から落ちたのだって、ショックのあまりぼんやりとしながら歩いていたからだ。
頭を打ったせいではなく、突然の結婚破棄の心因性による記憶喪失っていうこともあり得るの……?
「心因性なら……思い当たることがあります。母から、聞いているかもしれないですが……病院に運ばれるあの前、私、結婚式が取りやめになって」
本当は言うつもりなかった。
さっきの食事のときだって、話題がこの方向にいかないように自分で避けたのに、結局は自分で蒸し返してしまった。
でも、これからの治療のためにいずれは話さなくてはならないことかもしれないと思ったのだ。