君との子がほしい~エリート脳外科医とお見合い溺愛結婚~
「その衝撃とショックで、記憶を失ったということも有り得ますよね? おまけに頭まで打ったので、どちらが原因かはわからないですけど」
苦し紛れにふふっと笑って誤魔化す。
あまり重苦しい空気になっても申し訳ないと意識的に思っていた。
「さっきも言ったけど、失った記憶が日常生活に支障を来たしていなければ、さほど問題はないと思う。仕事も今まで通りできていて、日常生活の中で困ることもなければ、無理に追い求めなくてもいい」
ハンドルを握る久世先生は、フロントガラスの先を見据えたまま淡々と言葉を続ける。その整った横顔を吸い込まれるように見つめていた。
「忘れてしまってもいい記憶だってある」
え……?
「だから、そのままの君でいればいい」
久世先生の声を最後に車内には沈黙が落ちる。
『忘れてしまってもいい記憶だってある』
その言葉の真意を問うことができないまま、車は母の小料理屋の前で停車した。