君との子がほしい~エリート脳外科医とお見合い溺愛結婚~
「いらっしゃ……あ、舞花か。おかえり」
ちょうどお客様の途切れるタイミングだったのか、小さな店内にはカウンターの向こうに母の姿のみ。
お客様がいなかったのを確認すると、気兼ねなく「ただいま」と応える。
「早かったわね」
「え、早い? そう?」
そう言われて店内の掛け時計に目を向ければ、時刻はちょうど八時になるところ。
この時間で早いなんて言うとは、一体何時に帰ってくると思っていたのだろう。
「食事に誘ってもらったんでしょ? もっと遅くに帰ってくると思ったわ」
「もっと遅くって……なんか、いいホテルのフレンチレストランに連れていっていただいたよ。その辺のお店でちょろっとご飯とかじゃなかった」
そう言うと、母はふふっと笑って「あら、良かったじゃない」なんて言う。
「さすが久世先生ね」
「ていうか、なんで勝手に私を送るとかそういう話になってるの? 聞いてないし、別にひとりで帰れるんだから。子どもじゃあるまいし」
「お店のこと思い出して先に帰るって言ったら、それなら診察が終わったらお送りしますよって言ってくれたのよ、久世先生が。だからお言葉に甘えたの。そしたら、食事に誘われたって舞花から連絡がきたから驚いたわよ」
送るところまでは母との話に出てたけど、食事に誘ったのは久世先生が後付けで誘おうと思ったことだったんだ……。