君との子がほしい~エリート脳外科医とお見合い溺愛結婚~


 園児を連れて初めて来院したあの日は、極力目を合わさず、会話もうまくできないため、早く立ち去りたいという様子だったからだ。

 聡子さんからの話を受け、診察に訪れた都築さんは、確かに初めて会ったときとは様子が違っていた。

 目をしっかり合わせて話せるし、受け答えも落ち着いてできる。

 まるで別人のように普通だったのだ。

 男性が怖いということが記憶からなくなっている。

 恐らく、そのきっかけとなった高校時代の出来事自体が記憶からなくなっている選択性健忘という症状だと思われた。

 彼女自身の話では、今の生活になんの支障もなく、以前と何も変わらないという。

 それならいっそのこと、その記憶は戻らなくてもいいのではないかと思えた。

 辛く、その後の人生に影響を及ぼしているトラウマなら、むしろ消えてしまったほうが彼女のためかもしれない。

 だから、一部自分の記憶がなくなっていると言われ不安そうな顔をしている彼女に、忘れてしまってもいい記憶もあるとつい言ってしまった。

 医師としては問題発言だったかもしれないが。

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