君との子がほしい~エリート脳外科医とお見合い溺愛結婚~
この感じ、前にも覚えがある。
診察のあと食事に付き合ってもらった帰り道、別れ際、咄嗟に彼女を呼び止めていた。
『また、会えない?』
あのとき、喉元までそんな言葉が出かかった。
もう会うこともないかもしれない。そう思うと、次の約束を取りつけたいと無意識に呼び止めることをしていた。
しかし、彼女の事情を聞いた身、あのときは理性が強く働いた。
初めて会ったとき、真面目に真剣に仕事に向き合う姿に好感を持った。
何より、子どもたちに向ける温かく優しい眼差しに惹かれた。
自分にはないものを持っている彼女に惹きつけられたのだろう。
本当は、この縁を繋ぎ留めたいとあのとき確かに思っていた。
聡子さんと俺のやり取りを聞いていた落合先生が「じゃあ、決まりだな」と話をまとめる。
「と、我々で勝手に決めても、舞花さんにその気がなければこの話はなかったことにしよう」
「そう、ですね。聞いてみて、返事をさせてもらいます」
まさかこんな話の展開になるとは思ってもみなかった。
もしかしたら、彼女にまた会う機会があるかもしれない。
次もし会うことが叶えば、それは一歩踏み込んだ関係を始めてもいいという合図だ。
盛り上がる落合先生と聡子さんの会話を耳に、止まっていたホッケの続きを突き始めた。