異世界(に行ったつもり)で糖質制限ダイエット
17話 森へ行きましょう♪
『ピョン・ピョン…ピョン♪』
木漏れ日の中を黒猫が軽快に跳ねて進む。
時季は現世と同じなのか、所々に紅葉が見られた。
さわさわと音をさせて獣道を歩く。
「木の匂いがするなぁ」
現世にいた頃は こんなふうに自然を満喫する機会なんて しばらくなかった。
近所に公園もあったのに、そこにすら足を運ばなかった。
もったいなかったな と サクラは思う。
現世にいったらウォーキングがてらいくのもいいかな と。
「あ、キノコ発見!」
「あぁ、それは食べられますよ」
そう言うとイシルはかごを渡してくれた。
「ん?このかごはどこから……?」
そう言えばイシルは手ぶらだ
釣り道具とかは?
「亜空間ボックスからです。魔力量の多い者は 自分で作った空間から自由に取り出せます」
「なるほど」
「食べられないキノコもありますが、選別は後でしますから、好きにとっていいですよ」
わぉ!きのこ狩り
「がんばります!」
これもどうぞ、と、手袋までだしてくれた。
さすがですねイシルさん。至れり尽くせりです。
やってみると、これが案外楽しい。
シメジっぽいもの
しいたけみたいなもの
ドングリみたいなのも落ちてる
なんか、見るからにヤバそうな毒々しものも
あ!山菜っぽいの発見!
滑りがあるのは なめ茸?
そして、これは…なんだ?
「イシルさん これって……」
ふいっ と、頭をあげて振り返る
「あれ?」
右をみても……
左をみても……
同じような景色
「イシルさん?」
獣道からそんなに遠く放れてはいないはずだ
でも、サクラからは道が見えない
下をむいて進んだせいで、自分の位置がわからなくなってしまったのだ。
不安が押し寄せる
よくニュースなんかでも、国道のすぐ脇で救出!とかあったよ
やばいなコレ
「どうかしましたか?」
焦りだしたとき、後ろからイシルの声がした
「あ!イシルさん!」
明らかに安堵の顔をしたサクラ
「いや、イシルさんどっかいっちゃったかと怖くなって…いや、どっかいっちゃってたのは私なんですけどね」
「不安にさせてしまいましたね すみません」
「いやいや、イシルさんが謝ることないです。私が勝手にですね……」
「僕はどこにも行きませんよ」
イシルがサクラの言葉を切る
そして、サクラを見つめると、「だから……」とつづける
告白でもしているような真剣な眼差で
「貴女もどこへも行かないで……」
え?
「僕の側にいてくださいね?」
サクラは目をぱちくりさせる
イシルはふっ と 表情をやわらげると
「危ないですから」
と 付け加えた。
「あ はい」
申し訳ない、危なっかしくて。
「じゃあ、かごと手袋をください。川はそんなに遠くないですから」
そう言って サクラからかごと手袋をうけとり、ボックスにしまうと、右手を差し出した。
「……?」
もう何も持ってませんけど?
サクラは首をかしげる
「こっちです」
そう言って イシルはサクラの手を握り歩き出す。
「わあっ、イシルさん?」
ぐいっと手を引く
「はぐれると大変ですからね」
子供扱い?
イシルに手を引かれて戻ると、獣道からは十メートル程しか離れていなかった。
「ありがとうございます。もう大丈夫ですから」
「危ないので このまま行きましょう」
「え″?」
結構強引!
手は離してくれないらしい
恥ずかしいんですけど……
過保護だなぁ
「歩きにくくないですか?」
おずおずと聞いてみる
「問題ありません」
あぁ、そうですか。
仕方がないので、そのまま歩く
「……」
サクラの目の前にに イシルの後ろ姿がみえる
思ったより肩幅があって
細く見えるのは 手足が長いからかな……
肩から伸びた筋肉質な腕
引かれた手は力強く、男の人だった
細く長いキレイな指
その見た目に似合わずゴツゴツしていて、大きく、少し 冷たい
「イシルさんは 剣とか使うんですか?」
「何故ですか?」
ちらり と サクラを振り向く
「鍛えてそうな手…ですから」
ああ、と、イシルは横顔で笑う
「一通りは。剣も、弓もつかいますよ。槍、斧、レイピア……」
「すごい!オールマイティーですね!魔法も使えるし。見てみたいなぁ」
さぞかしカッコよかろう
「サクラさんの手は 女の子の手ですね」
「え?」
「柔らかくて、あったかいです」
そう言って、きゅっ、と握りしめる
「ずっと握っていたくなりますね」
木漏れ日に負けないくらいの眩しい笑みを浮かべる
『女の子』なんて久しく言われてないし、そもそもこの体型もあってキャラもの扱いのほうが多かったから
正直、ほんと、どう反応していいかわからない!!
サクラの戸惑いに イシルが楽しそうにくすくす笑う
「もしかして、からかってます?」
「いいえ、本心ですよ」
「……」
「ぷくぷくしてて、可愛いです」
素直な天然ほどたちの悪いものはいない
◇◆◇◆◇
川につくと、熊がいた。
″ざぱーん″
(ФωФ)シ <+)))><< ″ピチピチ″
″ザブーン″
(ФωФ)シ >゜)))彡 ″びちびち″
″びしゃっ″
(ФωФ)シ <*))>=< ″ピタピタ″
もとい、猫がいた。
水飛沫をあげて、前足で川の中の魚を 岸に弾き出している
ビチビチと 大小の魚が5、6匹ほど跳ねていた。
<゜)#)))彡 ………… <+))><< ………… >゜))))彡
「……」
「……」
すごいな……あいつ
イシルは ひょいひょいと石を飛び越え、黒猫に近づくと、首根っこを掴み、ぐいっと引っ張った。
『うにゃん!?』
イシルは猫を目の高さまでもっていくと、にっこりとわらう。
「今日は魚釣りを楽しむために来たんです。そんなに荒らされては 魚がにげてしまうでしょう?」
『ニャー』
イシルさん、笑顔だけど 目が笑ってませんよ。
「まぁ、自分の食いぶちは稼いでくれたようですね」
そう言うと、ポーン と、猫を放り投げた。
扱い雑ですねイシルさん、意外です。
黒猫は くるん と 一回転すると 何事もなかったかのように着地し、サクラの方に歩いてきた。
ほめて~と いわんばかりに サクラの足にすり寄る。
「すごいね!強いんだねー!びっくりしちゃったよ」
サクラは黒猫の頭をなで、耳をなで、首の下をなでてやる。
『ニャー』と 甘えた声で鳴く。
「サクラさーん、このあたりにしましょうか」
「はーい」
イシルによばれて、サクラはイシルの隣に腰を下ろした。