その乾いた心に… 〜愛する君へ〜
娘は疲れ果てて眠る男に抱きしめられたまま、ぐったりと身体を横たえていた。
縄に結び目など無かった。男は酒には酔っていたが夢中で、巻きつけた縄でただ娘を自分に繋ぎ止めておきたかっただけ…

「ごめんなさい……私はもう…この姿ではいられません…。私の大好きなあなた…あなたの役に立たない私を可愛がってくれてありがとう…。食べられそうもないと言われたけれど、あなたは私を取らずに、見栄えがいいと言ってくれて…」

小さくなっていく体は簡単に縄を抜け、娘は男を抱きしめ返した。

「私は信じています…あなたは優しい方ですから、盗むなんてもうしないと…。あんなときに私が、すぐに戻って来なかったから悲しかったんでしょう…ごめんなさい…。…あなたと一緒にいられてよかった……愛しています、あなたを……」


朝に男が目を覚ますと、娘に巻きつけた縄と、前に家近くに咲いていた小さな花が、男のすぐそばにあった。

「どこに行ったんだ…俺があんな事をしたから、今度こそ嫌いになったのか…?俺はなんてことをしたんだ…!」

男は何気なしにそっと花を拾い、その花を見つめた。すると、なんだか花が微笑んだ気がした。

「…お前なのか…?家に人間の姿で来てくれて…あんな俺を…」

『優しいあなた…愛しています…』

愛しい娘の声が聞こえた気がした。

「悪かった…!俺がお前を苦しめたから弱って…!!すぐに水をやるからな…!!」

その日から男は一切の酒を辞め、その小さな花を小さな器に入れ、毎日水を少しずつやって話しかけた。

「あぁ…人間のお前をもう一度抱きしめたいな……」


村を飢饉が襲った。もともと不毛な土地に追い打ちをかけるように、皆食べるものも無く、飢えて亡くなる者も後を絶たなかった。

男ももう、飲む水すらなく、最後の一滴を残すのみとなった。

「可哀想なお前…喉が乾いただろう…今…お前にやるからな…。これで最後なんだが…ごめんな……」

男は渇き始めた小さな花に水をやると、床にゴロリと転がった。

「優しいお前のことだ…俺を、心配してるんだろうが…寝てりゃあ大丈夫…だから…な……一緒…に……」
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