姫と魔王の城
魔王はそれを聞いて、ワナワナと震えた。

「…もう良い!!」

そう強く言い放つと、本物の姫の体は浮き上がり、人一人入る籠に入れられ、即座に眠らされた。

「魔王!!」

そばにいた娘が泣きながら叫んだ。

「お願いです…姫様に乱暴をしないであげてください…!」

「…お前はこんな者…こんな国の為に……」

魔王がそう呟き、娘にそっと触れると、娘の身体から力が抜けていった。

「あ……」

「お前は連れてきたこの『娘』を見張っていろ…。」

「はっ!!」

魔王は姫を連れてきた魔物にそう命じると、力の抜けた娘を抱き抱えて地下牢へ向かった。

「…まさか…貴方…は…私が…偽物…なのが…わかっていて……」

「…。」

娘の精一杯な言葉にも答えず、魔王はいつもの地下牢へ娘を入れ、寝床へ寝かせ足枷を繋ぎ直して姿を消した。

「…魔王……」

力の入らない娘は、その様子を見守るしかなかった。


しばらくすると、小鬼が泣きながら帰ってきた。

「どう…したの…?」

「姫…!」

小鬼は娘に抱きついて、泣きながら続けた。

「姫が連れられて行ってから、すぐにおいら、兵士長に呼ばれて……人間ともうすぐ戦争を始める、って…!!もう魔王さまの命令待ちなんだって…!!」

娘は寝床に体を横たえたまま絶句した。

「お、おいら戦争は嫌だ!!仲間もみんな死んじゃう!!そうじゃなくても今までみんな、怖い人間たちのせいで死んじゃったんだ!!もうそんなの嫌だ!!」

小鬼はいっそう娘の腕の中で泣き続けた。

「そんな……」

(姫様が攫われたから、王様達も黙っていないはず…そもそも国の戦争準備のために私がここに来たんだもの……)

「姫…姫……」

「私も、戦争なんて嫌…!」

娘はぐったりとした体で、小鬼を抱きしめるしかなかった。
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