悪魔と願いの代償
……

何年も前のこと。

幼い少女と少年の姉弟が薄暗い道を歩いている。弟は全くの無表情の無言で、姉は悲しそうに時々弟を見つめながら手を引いていた。

「お願い、笑って…?母さんと父さんが亡くなって、辛いのはわかるわ…でも、あなたまでこんな、お人形みたいになっちゃったら、あたし……」

そのとき、男が通りかかった。優しげに笑みを湛えてこちらに来る。

「…なんだ、子供か……こんな時間に薄暗い道を歩くものじゃない。」

突然話しかけられ、少女はビクッと体を震わせた。

「…だが悪くない…。寒そうにしているな。暖めてやろう、こっちへおいで…」

「あ、あの…」

「…もう一人いるのか…。まあいい、子供なんて、抱きしめて口付けてやれば笑うものだからな。」

男は二人をそっと抱きしめた。

「わあ…温かい…!」

少女は嬉しそうに笑った。

「俺の家で温かいものでも食わせてやろう。さあ…」

優しげに男が言う。

「あの…」

「…なかなか良い…先にこっちの娘を……」

男は何か呟き、さらに姉弟に近寄ろうとしたその時、

「メル!リズ!」

「あ、おばさん…!!」

一人の女が姉弟に駆け寄った。

「手紙に、二人だけでこっちへ来る、なんて書いていたから心配したのよ!あぁよかった!」

「…ちっ…」

「おばさん、あたしたち大丈夫よ。でも、リズが……」

「わかっているわ…。迎えに来たのよ、さ、うちにおいで?」

「あ、あと……あれ?」

少女が振り返ると、もう男の姿はなかった。

「そうだ…!…リズ、良かったね、おばさん、来てくれたよ…?寒かったでしょ…もう平気よ…」

少女は男の言っていたとおり、弟を抱きしめ、頬にそっと口付けた。

「…う…うん……おねーちゃん……」

「リズ…!!おばさん、リズがしゃべった!!ずっと何日もしゃべらなかったのに…!!」

娘は泣いて喜んだ。

「本当!?良かったわ!!じゃあ少しだけだけど、ごちそうを作らないと!」

「ありがとうおばさん!!…いつか、お礼をしないと…!優しいあの人にも…!!」

幸せそうに家に向かう3人。

そう、会っていた、人間の姿で。悪魔にとって、どうとも思わない記憶だった。
ただ、油断させて屋敷に連れ込み、二人を弄んで、記憶を消して追い出すだけのつもり。他の人間が来たことで未遂だけで終わった、それだけのことだった。

だがそれが、この娘にとってあの言葉は、どれだけ救われたことだったことか。
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