唇を濡らす冷めない熱
「じゃあ、これからは俺達がこの席を使わせてもらおうかな? 別に良いよね、眞杉さんも横井さんも」
良くない、全然良くありませんから今すぐ別の席に行って、貴方の取り巻きと楽しんでてよ! 本当はそう言いたいけれど相手は自分の上司、そんな反抗な態度ばかり取るわけにもいかず……
口の端を引きつらせながら「どうぞ、お好きなように」と言うことしか出来なかった。
何のつもりなのか、もしかして私に対する嫌がらせのつもりだったりするの? 梨ヶ瀬さんはさっきからニコニコと微笑んでいて、その本音を知ることは出来ない。
どうしようかと隣を見ると、眞杉さんが慌てた様子で食事を終わらせたところで……
「私、お先に失礼しますねっ! どうぞ、ごゆっくり」
「ええ? ちょっと、眞杉さん?」
席を立ち食事のトレーを持つと、そのまま返却口へと向かい逃げるように彼女は食堂から出て行ってしまった。
……私をこんな状況で一人だけにしないでよ、眞杉さん。こうなったら私もさっさと食事を終わらせて、ここから離れるしかない。
そう思って食事を再開すると……
「……また逃げられた」
梨ヶ瀬さんの隣に座る男性社員がポツリとそう呟いて、がっくりと項垂れてしまった。えっと、逃げられたってもしかして眞杉さんの事?
「残念、さすがにこの反応は脈無しなんじゃないのかな?」
先程から変わらない笑顔の梨ヶ瀬さんにハッキリとそう言われて、ますますその男性の頭が下がっていく。これってつまり……この人が眞杉さんの事を、って事よね?