唇を濡らす冷めない熱
「私が言いたいこと、分かるわよね?」
「はあ、何となく……」
一方的な嫌がらせをして、こんな風に強引に連れ出しておいてよく言う。私が言いたいこと、とやらもこの分だと相当身勝手な内容に違いない。
この先輩が梨ヶ瀬さんに気があるのは分かってる、どうせ今回のサポート役である私が気に入らないのだろうけれど。
おあいにくさま、私が散々断ってのこの結果なんですよ。どうにかしてほしいのなら上司に直接掛け合ってくれません?
「何となくって、横井さんって本当に生意気ね! そんなんだから皆に嫌われてるって分からないの?」
「そういうの、私気にしないタイプなんで」
それに皆っていったい誰のことだろう? 少なくとも私の事を敵意剥き出しで見ているのは、梨ヶ瀬さんの金魚のフンである先輩を含めた数人のはずだけど。
「課長が味方に付いているから大丈夫ってこと? 何それ、調子に乗らないでくれる?」
「いえ、そんな事は一言も言ってませんけど?」
勝手に言葉を変な方へ解釈して、腹立てるのやめてくれません? 普段は大人しい先輩だったが、こうなると流石に面倒くさい。
困ったな、と給湯室の外に目を向けると……そこには中に人が入らないように女性社員が話をするふりをしてガードしている。
こんなところで協力しているが、誰か一人が私と同じ立場になれば変わらない扱いをするのだろうなあ……
なんてのんびり考えてしまっていた。
「部長に梨ヶ瀬課長の補佐は出来ませんって、断りなさいよ」
「……何故ですか?」