唇を濡らす冷めない熱
「な、梨ヶ瀬課長! どうしてここに?」
慌てた様子の先輩が外にいたはずの女子社員を見ると、彼女たちは既に梨ヶ瀬さんに後ろで申し訳なさそうに手を合わせている。
きっと梨ヶ瀬さんに上手く丸め込まれてしまい、この現場を見せてしまったのだろう。
「どうしてって、ここは社員全員が使う給湯室だよね? そこに俺が来ることがそんなにおかしいのかな」
梨ヶ瀬さんの遠回しな言い方が余計に怖い。誰もが見に来れる場所でおかしな事をしている方が悪い、私にはそんな風に聞こえてしまう。
梨ヶ瀬さんはゆっくりとした動作で私の前に立ち、先輩と真正面から向き合ってみせる。この状態が彼に守られているみたいで、何となく恥ずかしかった。
「篠根さんが優秀なのは知っているけれど、どうして俺のサポートに相応しいかを横井さんに言わせる必要があるの?」
「それは……その、私が言うよりは話がスムーズかと思いまして」
嘘を言わないで、そうやって私を威圧して自分から梨ヶ瀬さんのサポートを断るように仕向けてたくせに。
少しでも自分のイメージを悪くしないようにと、さっきの事を誤魔化そうとしている先輩に腹が立つ。
「そうなの、横井さん?」
わざとらしく私に確認してくる梨ヶ瀬さんと、ギロリと鋭い目つきで睨んでくる篠根先輩。もうどうするのが一番良いのか段々分からなくなってくる。