唇を濡らす冷めない熱
言えない、この我儘
ショックを受けて呆然としている篠根先輩たちをその場に残して、私は一度お手洗いに行き鏡で自分の顔を見る。鏡に映る自分はいつも通りなのに、さっきの出来事で何だか胸が落ち着かない。
大きなため息をついて頬を叩いて気を引き締めると、そのままミーティングルームへと向かった。
「横井です、失礼します」
扉をノックして返事を確かめて部屋の中へ、そこには梨ヶ瀬さんが一人でテーブルの傍に立っていた。
そのまま部屋の入り口で黙って立っていると、あちらからゆっくり近づいて来て……
「本当に横井さんは何でもかんでも全部自分で抱え込もうとするよね」
「そうかもしれないですね……」
人に頼られるのは大好きなのに、頼るのは得意じゃない。特に男性に弱みを見せるのは随分前から苦手だった。
こんな性格だから可愛くないのは百も承知だし、それで梨ヶ瀬さんが興味を無くしてくれるのなら万々歳だ。
「可愛くないって言われるでしょ?」
「どうでしょうね、梨ヶ瀬さんがそう思うのは勝手ですけど」
投げやりな言い方に梨ヶ瀬さんが少し呆れたように溜息をつく。今になって助けた事を後悔しているのかもしれない、そう思っていたのに……
「可愛くなさ過ぎて、俺には可愛くてしょうがなく見える。どれだけこの子は頑張り屋なんだって、撫でて甘やかしてやりたくなるよ」
……いったい何を言っているの、この人は?