唇を濡らす冷めない熱
「わ、私が言っているのはそういう事じゃなくて……!」
可愛くないと言われてそんな風に考えてるなんて思わないでしょう? 本当に梨ヶ瀬さんの本性って滅茶苦茶に歪んでるとしか思えない。そんな私の考えを読んでいるかのように……
「もう横井さんに呆れて興味がなくなるとでも思った? 残念だったね、ますます君の事が欲しくなったよ」
「欲しくなったって……また、そんな馬鹿みたいなことを言って」
はっきりと言われた言葉に、一瞬で頭が沸騰しそうになった。普段はのらりくらりとかわして遠回しな言葉しか言わない人なのに。
一気に梨ヶ瀬さんを異性として意識してしまって、頭がうまく働かない。上手い返しも見つからないまま、顔を赤くさせてしまい梨ヶ瀬さんを喜ばせてしまう。
「へえ、そんな顔してくれるようになったんだ? 前よりちょっとは横井さんに男とし認識されてきたって思っていいのかな?」
本当は分かってるくせに、わざわざ問い詰めるようなことをするなんてこの人は本当に意地悪だ。なんとも思ってない相手に、私がこんな反応するわけないって知っているだろうに。
だからと言って素直に「はい、そうです」なんて言うつもりなんてない。こんな人に本気になったら私が振り回されるに決まってるんだから。
「最初からちゃんと分ってますよ、梨ヶ瀬さんは男の人だって」
「俺が言ってるのはそういう意味じゃないっていう事も、本当は分かってるくせにね?」
本当に嫌な男! こっちが誤魔化したいって言っているのに、少しもそうさせてくれないんだから。