唇を濡らす冷めない熱
それにしても、梨ヶ瀬さんとこの男性社員はどういった関係なの? 彼は本社からこの支社に来たばかりのはずなのに、とても打ち解けた関係のようだけど。
そんな疑問が顔に出ていたのか、梨ヶ瀬さんはそんな私を見て少し首を傾げてみせてこう言ったのだ。
「俺の事が気になるの? 横井さん」
この人ってもしかして性格凄く悪くない? そんな聞き方をされて「はい」と言ったら、私が梨ヶ瀬さんの事を特別な意味で気にしてるみたいに聞こえるじゃない。
梨ヶ瀬さんはきっと可愛くない部下の私の反応を楽しんでいるに違いない。それならば……
「いいえ、気にしてません。梨ヶ瀬さんこそ、そんなに私に自分の事を気にして欲しいんですか?」
ほら、貴方だってこんな言い方をされたら困るでしょう。こんな生意気な女子社員とは関わらないでいようと思ってもらって結構ですので。
そう強気で返したつもりだったのに……
「……うん、多分そうなのかも?」
「はい……?」
梨ヶ瀬さんのまさかの答えに、とうとう私の耳がおかしくなったのかと思ったくらいだ。「うーん」と唸りながら考える仕草もわざとらしい、とても真剣に悩んでるようには見えない。
そろそろ冗談は終わりにして欲しいのだけど、どうやっても私の方が振り回されていて不愉快だし。
なんとか話題を変えようと考えると、斜め前に座る俯いたままの男性社員に目がいった。