唇を濡らす冷めない熱
「や、やりすぎではないですか? 何もそこまで……」
確かに篠根先輩のやったことに腹は立ったが、あの鬼課長のサポートなんてあんまりじゃないだろうか? 彼女だって梨ヶ瀬さんのサポートにつきたくて仕事の出来るアピールをしていたんでしょうし。
だけど私が思っていたのより梨ヶ瀬さんは厳しい考えらしく、そんな私ににっこりと笑ってみせる。
「やりすぎ? いったいどこが? 彼女は二度も君に対して嫌がらせでは済まない行動をとった、当然の報いだと思うけど」
「それはそうですが、何も鬼課長のところでなくても」
どうした嫌がらせされた本人が、加害者を庇わなきゃならないのか分からない。そんな私の胸の内を知ってか知らずか、梨ヶ瀬さんは笑顔のまま。もう! 本当にその微笑みは苦手なんだってば!
「横井さんのそんな優しいところは嫌いじゃないよ。でもね、俺だって好きな女の子のあんな場面を見て冷静でいられるほど人間出来ていないんだ」
嘘つけ! あの時の梨ヶ瀬さんはいつも通り落ち着いていて、すごく余裕の表情だったじゃないの。むしろタイミングを狙ってきたかのようで、最初から分かってたんだろうって疑いたくなったほどだ。
「十分冷静だったと思いますよ、梨ヶ瀬さんは」
「……気にしてほしいのはそこじゃないんだけど」
じゃあどこを気にしてほしいんですか? 分かりにくいんですよ、本当に! そんな恨みがましい目で梨ヶ瀬さんを見上げたら、もっとまぶしい笑顔で返されてしまった。
……いったい何が言いたいのよ、この人は。