唇を濡らす冷めない熱
「面倒くさい……」
そう呟くと、梨ヶ瀬さんは指先で私のおでこをピンと弾く。どうやら私の発言が少し気に入らなかったようだ。
梨ヶ瀬さんの言いたいことには本当は気付いている、だけどそれを口にするとますます追い詰められて逃げられなくなってしまうそうで怖いもの。
だから、知らないふりして誤魔化すの。
「それはこっちのセリフだからね? 横井さんはもう少し素直になったほうが可愛いと思うけど」
「それじゃあ梨ヶ瀬さん好みの素直で可愛い子を探してきてあげましょうか? きっと希望者もたくさんいるでしょうし」
私にそんなことを望んでるならおあいにく様、この性格を直す気も可愛く振舞う気も私にはサラサラない。私は今の自分を結構気に入っているのだから。
「そうやって俺の気持ちを試すの? 俺が言っているのはそういう事じゃないって最初から分かってるくせに」
本当に面倒くさい。何でも分かってて、余裕ばかりみせるこの人は。こっちから振り回してやろうとするのに、結局私が振り回される側になる。
「試す? 何のことですか、私を試すことばかり言ってるのは梨ヶ瀬さんの方でしょう?」
この言い合いはいつもで続くのか、いい加減飽きてきてこのまま梨ヶ瀬さんに背を向けて部屋から出てしまおうかと思った。そんな私を引き止めるように、彼の手が私の手首をつかむ。
「話、まだ終わってないよ?」