唇を濡らす冷めない熱
「まだ、何か……?」
言いたいことがあるのならさっさと終わらせろ、そう言わんばかりの視線を梨ヶ瀬さんに向けると「やれやれ」と言わんばかりの顔をされる。
そういう所が私をイラつかせてるんだって分かってるくせに、この人はそれを止めるつもりはないらしい。
「君は一番大事な事、俺に言わせないつもり?」
その言葉に不覚にも胸がドキンと大きな音を立ててしまった。これはただ驚いたから、決して期待したからじゃない。そう自分に言い聞かせていると、梨ヶ瀬さんがそんな私を見て困ったように微笑むと……
「一人でよく頑張ったね、麗奈。だけど次からはちゃんと俺を頼るようにしてね?」
頭頂部をポンポンと撫でる大きな手、自分が何をされているのか一瞬分からなかった。いつもの胡散臭い作り笑いと違う梨ヶ瀬さんの微笑み、優しい言葉に温かい手のひら。
どれも私を混乱させるには十分な理由だった。
「それじゃ、俺は先に戻るけど……横井さんは少し落ち着いてから戻ってきたほうがいいと思う」
返事の出来ない私に梨ヶ瀬さんはそれだけ言うと、そのまま私を置いて部屋から出て行ってしまった。
「なによ、あれ……? いったい何なの?」
扉が閉まると同時に顔が一気に熱くなるのが分かった。それはすぐに身体まで届きクーラーの効いた部屋だというのに汗が吹き出しそうだった。
嬉しかった? 恥ずかしかった? それとも梨ヶ瀬さんにトキめいてしまったのか、自分の気持ちが整理できないまましばらくその場から動けずにいた。