唇を濡らす冷めない熱
「どうしたんですか、さっきからずっとコロッケを睨んで。もしかして嫌いだったとか?」
目の前でうどんを食べていた眞杉さんからそう話しかけられて、私は今食事中だったことを思い出す。
もちろんコロッケが嫌いなわけでもなく、ましてや憎いわけでもなく……ただ単に、さっきの梨ヶ瀬さんとのやり取りを思い返していただけ。
そう、そのはずなのに……
「あら? よく見ると顔も赤いですよ、もしかして熱があるんじゃないですか?」
「違うの、今日はちょっと暑くて……少し急いで来たから」
急いでここに来たのは本当だ、また梨ヶ瀬さんにつかまる前に食事を済ませようと早く来た。なのに、また彼を思い出してボーっとしているなんて自分の馬鹿さ加減に呆れてしまう。
「そうですか? そういえば横井さんの言っていた、私たちのダブルデートについてなんですけど……」
「ああ~、そんなのもあったわ。それ、絶対参加しなきゃ駄目……?」
この状況で梨ヶ瀬さんと一日一緒にいなきゃいけないなんて、あまりにも気が重すぎる。段々私に対して甘くなっていく彼にどう対処すればいいのか分からない。
どうにか梨ヶ瀬さんから離れれる方法がないかと真剣に考えているのに。
「横井さんがいてくれなきゃ、私は鷹尾さんと二人きりなんてとても耐えられそうにありません……」
そうよね、私が無理を言って眞杉さんに頼んでいるのに、自分が参加しないわけにはいかない。そう考えると私は梨ヶ瀬さんにどんどん追い詰められてる気がしてくる。