唇を濡らす冷めない熱
「どうしてこんなに梨ヶ瀬さんの思うとおりに話が進んでいくんだろう……?」
「梨ヶ瀬課長がどうしたんですか? そういえば横井さんがサポート役になられたんですよね」
悪意のない眞杉さんの言葉に、梨ヶ瀬さんへの不満をこれ以上話していいものか悩む。彼女には梨ヶ瀬さんが良い課長に映っているのかもしれないので、悪い印象を与えるのも気が引けた。
だけど梨ヶ瀬さんのサポート役も彼が裏で手を回していたし、ダブルデートだってもしかしたら何か鷹尾さんに吹き込んでいたのかもしれない。
そんなことを考えるとますます、彼の傍にいなければならない事が苦痛に思えてきてしまう。だけど、そんなときに限って……
「あ、梨ヶ瀬課長と鷹尾さんですよ」
眞杉さんがそう言って指差す先には、笑顔で話をする梨ヶ瀬さんと鷹尾さん。そして金魚の糞のごとく二人についてまわる女性社員。
篠根さんの件で何人か減ってはいるものの、相変わらず彼らは人気らしい。
「……やっぱり不釣り合いですよね、私なんか」
「え? どういう事?」
二人を見てしょぼんとする眞杉さんの言葉の意味が分からず聞き返した。眞杉さんが不釣り合いとはいったい……?
そんな彼女の視線が二人にではなく、鷹尾さん一人に向けられてることに気付いて私はなるほどと思った。