唇を濡らす冷めない熱
嘘つき、か。拗ねたような顔でそう言う梨ヶ瀬さんはちょっとだけ可愛く見える、だからと言ってこの表情に騙されたりはしませんけどね。
本気だというのなら、梨ヶ瀬さんも鷹尾さんみたいになりふり構わない所を見せればいい。そうすれば少しは考えてあげなくもない。
それに……
「梨ヶ瀬さんには、そんな風に一人の女を追いかけるのは似合わない気がします。もっと軽く上手に付き合える女性にしてはどうですか?」
素直に自分が思っていることを言ったつもりだった、きっと美人で梨ヶ瀬さんに合わせてくれる素敵な人がいるはずだと。
なのに胸の奥がちくりと痛み、私はその感覚に気付かないふりをする。
「俺は似合う、似合わないで恋をするつもりはないんだ。その相手を好きか、そうではないか……普通はそうじゃないの?」
至極まっとうな言葉で返されて、こっちが返答に困ってしまった。私は梨ヶ瀬さんが素敵な男性で自分とは釣り合わないから、そうやって自分とは感覚が違うんだと決めつけていた。
それに気付かれ、一気に恥ずかしくなる。
「そう、ですね。私もそうです。変な言い方をしてごめんなさい……」
さっきの発言を反省して素直に謝ると、梨ヶ瀬さんは微笑んで自分のトレーにあったコーヒーゼリーを私のトレーに乗せる。何なのかと思って彼を見ると……
「横井さんが素直に謝ることが出来たご褒美、ね?」
と、頭を撫でるような仕草をしてみせる。あえて触れないのは、周りで私たちを睨んでいる女子社員に気を使ってくれたのかもしれない。