唇を濡らす冷めない熱


「こんな時に子ども扱いしないでください、私は真面目に謝っているんです」

「じゃあ恋人扱いさせてくれる?」

 私の言葉をそうやって逆手に取るのは止めて欲しい。拗ねた私の態度を可愛いとでも言いたげな、梨ヶ瀬(なしがせ)さんの視線が鬱陶しくてたまらない。
 
「それはもっとお断りです」

 だいたい私達は恋人同士でもないですし? 告白に近い言葉は何度か聞かされたけど、付き合ってくれとは言われてない。まあ、梨ヶ瀬さんに付き合って欲しいと言われてもキッパリと断るって決めているが。
 そんな私たちの会話をハラハラとした様子で見守っている鷹尾(たかお)さんと眞杉(ますぎ)さんには申し訳ないと思うのだが、梨ヶ瀬さんとのやり取りはまだ終わりそうにない。

「さっきは喜んでOKしますって、ハッキリ言ったくせにね?」

「さあ、言いましたっけ? すぐに嘘だってバレてたので、それで問題ないですよね」

 ニコニコ笑顔のままの梨ヶ瀬さんと、ツンツンと澄ました顔で彼の言葉に返事をする私。遠回しに口説かれているが、そんなセリフも私の胸に届く前に全部叩き落してやる。

「それは狡いでしょ……?」

「狡くて構いませんよ。私、用があるので先に失礼しますね?」

 そう言って立ち上がると、空になった食器を乗せたトレーを持ってその場を後にした。もちろん、梨ヶ瀬さんから貰ったコーヒーゼリーも綺麗に食べ終えて。


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