唇を濡らす冷めない熱
「どうして、私なんです?」
たくさんの言葉をもらっても、まだ私は自分が選ばれてる理由が分からない。いくらでも魅力的な女性が周りにいるのに、彼は私に固執する。
「欲しがりだね、横井さんは。いくら言ってもまだ不安なんだって顔をしてる」
そんな私の隠した部分まで勝手に暴こうとするから、貴方のことが嫌いなのに。
……そうよ、不安よ? それの何が悪いの、私は梨ヶ瀬さんみたいに自信があるわけじゃない。梨ヶ瀬さんの隣に立つ勇気もないの。
「だったらなんだって言うんですか? 私は……」
「いいよ、あげる」
言われた言葉の意味が分からず首を傾げた。あげるって、いったい何を?
「横井さんが安心して俺の胸に飛び込めるようになるまで、いくらでも君を好きだってことを教えてあげるから」
「なっ!?」
場所も考えずになんてことを言うの! ここが会社の階段だってことを忘れてるんじゃないかって思ってしまった。
たまたまここには私と梨ヶ瀬さんしかいなかったが、誰かに聞かれでもしたらどうなるか分からないのに。
それに梨ヶ瀬さんの言葉は私が彼を好きになることが前提になっている。いったいどこにそんな自信があるのか逆に知りたくなってしまった。
「安心するも何も、私は梨ヶ瀬さんの胸に飛び込む予定はありません」