唇を濡らす冷めない熱
「俺の予定にはあるんだから、そろそろ諦めてくれない?」
今度はそう来たか、本当に何を言っても自分の都合よく返してくる人だ。そこまで頑張るほどの価値が私にあるとは思えないのだけど。
「梨ヶ瀬さんが諦めれば済むことです。私の予定は変わりません」
直接的にも遠回しでも、これだけ特別な感情を示してくれてるのに私は応えられない。
本当の自分がどんなに寂しがり屋で束縛の強い女なのだと知られたら、きっと彼だって離れていくに違いない。
好きだから自分だけを見て欲しい、愛しているから同じだけ愛して返して欲しい。そうして過去も未来も全部私だけのものにしたくなってしまう。
……言えない、こんな我儘は。
どこか冷めたところのある私は、恋愛においても同じように考えられることが多い。相手に甘えたり、頼ったりすれば「思ったのと違った」という言葉で拒絶される。
だんだん本音で付き合えなくなって、お付き合い自体が面倒になってしまった。それでも梨ヶ瀬さんの言葉に揺さぶられるのは……
「残念だね、俺も諦める予定はないんだよ。これは俺と横井さんの根競べになるのかな?」
「梨ヶ瀬さんってしつこいですね、爽やかな見た目によらず」
もしかしたら、梨ヶ瀬さんは本当の私を受け入れてくれる人なのかもしれない。そんな期待をしてしまいそうになるからだ。