唇を濡らす冷めない熱
「簡単に諦めれるようなら、君は本気だなんて思ってくれないだろ? しつこいくらいじゃなきゃ心揺さぶられてくれないくせに」
何もかも分かったようなこと言わないで、それが当たっているからなお腹が立つのよ。もう十分私の心に侵入して来てるくせに、まだ満足出来ないって顔をするんだから。
こんな時いつも過去の恋愛の失敗が足を引っ張る、梨ヶ瀬さんの言葉に素直に頷きたい気持ちがあるのにどうしてもそう出来ない。
「そこまでして欲しいですか、私の心なんかが」
「なんか、じゃないよ。俺にとっては横井さんの気持ちはそんな軽い物じゃない、だからそんな言い方はしないで」
こんな時だけ真剣な表情をしないでよ、これ以上は私の心臓が持ちそうにない。真っ直ぐ見つめてくる梨ヶ瀬さんから目を逸らすと、私は黙ったまま階段を駆け上がって彼から逃げてしまった。
お手洗いで冷静になれるまで少し頭を冷やしていると、ポケットに入れていたスマホからメッセージの受信を伝えるメロディー。
梨ヶ瀬さんかと恐る恐る開くと……
『来週の土曜に四人で遊園地に行こうって鷹尾さんから伝言です。横井さんも、来てくれますよね……?』
どうやら鷹尾さんが強引に遊園地の話を進めたようだった。眞杉さんから頼まれれば嫌とは言えず「わかった」と返事を送りスマホをポケットにしまった。